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人体の力学 - 基礎から学ぶバイオメカニクス -

人体の力学 - 基礎から学ぶバイオメカニクス -

ヒト(人体)が持つ能力・機能について,基礎的な理解と正確な解釈を可能にするユニークな教科書。バイオメカニクス分野を学習する学生や医療,福祉などの分野において基礎研修を望む実務者・研究者の知識の整理に役立つ一冊。

発行年月日
2020/05/28
定価
3,410(本体3,100円+税)
ISBN
978-4-339-07246-4
在庫あり

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実験力学 Vol.20,No.2(2020年6月 日本実験力学会)

掲載日:2020/07/09

新刊図書のご案内 (日本実験力学会推薦図書)

・体の不思議を力学する

 私たちの体は不思議である.体を構成する約40兆個もの細胞は,調和を保ちながら絶え間なく働き続け,私達をエントロピー増大の法則から抗わせる.そして彼らが作り出す組織,器官は,精緻かつ複雑な機能・構造をもちながら,その理由について思いを馳せるとやはりそうあるべきことが自然の摂理であるかのごとく納得させられる.これはなにも私たちの体を医学,生物学,生命科学の見地から眺めたときだけの感想ではない.体といういかにも神秘なる存在を,機械工学という産業基盤の根幹をなし,体の神秘性と相容れないように思われるこの学問から眺めたときの感想である.機械工学を構成する主要な学問はいくつかの力学(機械力学,固体力学(材料力学),振動力学,流体力学,熱力学)である(はじめに触れたエントロピー増大の法則も,熱力学の基礎の一つである).そして本書の前半部では,体の機能,構造について概説するとともに,それぞれの力学の基礎となる領域を,要点を押さえつつ平易で親しみやすい内容で解説されている.それら力学の基礎を身につけた後,本書の後半部では,私たちの体の不思議が,それら力学を駆使し,説明できることを示している.
 本書の著者らは,それぞれの分野において第一線で活躍されている高名な先生方であるため,本書はバイオメカニクスの基礎を教授することを主たる目的としたものと思われるが,折に触れて最先端のトピックも散りばめられており,当該分野の初学者のみならず,ある程度の経験を積んだ研究者にもお勧めできるバイブル的な本である.また,バイオメカニクスを直接的に専門としない生物学者,医療関係者にも,本学際領域を俯瞰するための幅広い知識を涵養する書籍として,ぜひとも一読をお勧めする良書である.
(森田 康之/熊本大学教授)


・時代のニーズに応える書籍

 人体機能を力学的な観点から解釈する『人体の力学』が新しく出版され,偶然のことではあったが,拝読する機会に恵まれた.本書は,9章から構成され,その内容は力学基礎から工学および医学分野にまでわたっている.執筆者は8名で,それぞれ工学あるいは医学の分野の第一線で活躍されており,それぞれの専門分野を分担執筆されている.内容は,力学,解剖生理学基礎,運動器系,循環器系,人体熱力学,人体の運動,歯科,生体物性,計測技術などに関して要領よくまとめられ,平易に解説されている.また,2章から8章の章末には,それぞれの章の内容に関連した演習問題も設けられていて,バイオメカニクス分野を学習する学生への教科書を想定した配慮もみられる.本書には,「基礎から学ぶバイオメカニクス」という副題がついていて,文字通り力学の基礎部分からの丁寧な解説がなされており,理工学系の学生や研究者だけはではなく,医療,福祉,看護,介護などの分野への従事を目指す学生にとっても学習しやすいように工夫されている.最近,生物の構造,形態,機能,運動などを力学的観点から探求し,リハビリテーション,スポーツ記録の向上,人間工学などに役立てようとする分野がきわめて活発になってきており,時代のニーズに合致したタイムリーな本書出版は貴重であろう.もし,第二版の出版を計画されているのであれば,書籍の内容全体を見渡しして頂き,重複している説明部分はまとめて頂いた方が,より統一のとれた書籍となろう.
(須藤 誠一/秋田県立大学名誉教授)