高電圧工学 (改訂版)
現行のJISに対応した図記号を修正し,電流積分電荷法といくつかの章末の演習問題を追加
- 発行年月日
- 2024/04/25
- 判型
- A5
- ページ数
- 228ページ
- ISBN
- 978-4-339-01218-7
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
図や写真を多用し平易な説明に心がけ,基本的なことを中心に新しい高電圧技術やその応用にも触れた。改訂版では,本文の見直しと現行のJIS対応に図記号の修正を行い,電流積分電荷法およびいくつかの章末の演習問題を追加した。
まえがき
高電圧工学は,放電および絶縁破壊の基礎理論から,今日の超超高圧(ultra-high voltage,UHV)送電を支える絶縁技術や高電圧機器,そして高圧エネルギーによる粒子加速器や放電を利用した電子コピー機などの多数の応用までを扱う興味深い学問である。また,最近では,応用範囲の広い放電プラズマ工学や高電圧パルスパワー工学などの新しい技術が注目され,高電圧工学の重要性は今後ますます高まっていくものと思われる。
この分野では,古くから著名な研究者により多数の書籍が出版されている。著者らは,高専や大学での高電圧工学の教科書に数ある名著の中から,学生の興味を引きそうなもの,わかりやすいもの,そして量的に適当なものを選び講義をしてきた。それらの書籍は,高電圧現象がきちんと体系化され,理路整然とした説明で非常に教科書としてよかったが,ビジュアル的に理解を助ける絵や写真がもう少し欲しい感もあった。そのような折,初めて高電圧工学を学ぶ高専あるいは大学の学部学生のために,絵や写真を多用したよりわかりやすい教科書つくりの話があった。近隣高専の高電圧授業担当者が集まり,全編を15章構成にしてシラバスと対応しやすくすること,多くの書籍を参考にしてできるだけ平易な説明に努めること,図や絵,写真をできるだけ多用することなどを話し合った。そして唯々わかりやすい教科書をつくろうという気持ちで,浅学を省みず執筆することになった。
執筆にあたり多くの書籍および資料を参照させていただいた。また,絵や写真を引用させていただいたところも多々ある。これらの参考資料は,各章ごとに参考文献として挙げ敬意を表した。執筆分担は,2~6章の放電理論とプラズマ基礎および12章の高電圧測定を植月が,10章の電界と絶縁および13~15章の高電圧機器,高電圧試験,高電圧応用を松原が,そして,1章の高電圧工学の概要と7~9章の液体,固体,複合誘電体の絶縁破壊および11章の高電圧の発生を箕田が担当した。各章にコーヒーブレイクを設け関連した興味ある話題を挙げた。また,各章に5,6題の演習問題も付けているので理解を深めるためにも挑戦してほしい。
昨今の高電圧技術の進歩と変遷により,一変した技術も少なくなく,筆者らの思い違いによる不適当な記述があれば,是非ご叱正をお願いしたい。ともあれ,本書が高電圧工学を学ぶ学生の理解を少しでも助けるものになれば幸甚である。
終わりに,本書の執筆にあたりコロナ社の協力はもとより,本教科書シリーズの編集委員である江間 敏先生には,全体を通じて種々有益なご助言,ご指導をいただいた。ここに厚く感謝の意を表す。また,超電導マグネットの写真は核融合科学研究所に,分流器・分圧器などの資料はパルス電子技術(株)に,無誘導同軸シャントの写真およびデータは(株)トーヘンおよび(株)東芝の谷口安彦氏に,またシンクロトロンの写真は高エネルギー加速器研究機構にご提供いただいた。そして,高電圧機器全般の写真やデータ収集は,中国電力(株)倉吉電力所にご協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表す。
2006年1月 著者
改訂にあたって
本書は2006年に初版を発行して以降多くの大学,高専で採用されてきた。発行当時,広く慣用していた図記号を用いたが,変更された図記号が普及されたことに伴い,今回,現行のJIS対応に修正を行った。
併せて本文の見直しを行うとともに,新たな技術や章末の演習問題をいくつか追加した。演習問題の見直しの際,新たな執筆者として石倉が加わった。
改訂にあたり,空間電荷の測定方法と電流積分電荷法の資料は松江高専の福間眞澄先生に協力いただいた。ここに記して感謝申し上げる。
2024年2月 著者
1.高電圧工学とは
1.1 自然界における高電圧
1.2 高電圧工学の役割
1.2.1 高電圧と絶縁
1.2.2 高電圧と応用
演習問題
2.高電圧現象
2.1 気体粒子の運動
2.1.1 気体の状態方程式
2.1.2 粒子のエネルギー
2.1.3 粒子の速度分布・エネルギー分布
2.1.4 衝突断面積,衝突周波数および衝突損失割合
2.1.5 平均自由行程
2.2 励起・電離
2.2.1 原子のエネルギー準位
2.2.2 衝突による励起・電離
2.2.3 熱電離
2.2.4 光電離
2.2.5 階段励起,累積電離
2.2.6 電離電圧と放電開始電圧の関係
2.3 電離気体で起こる現象
2.3.1 電子温度と電子エネルギー分布
2.3.2 移動度
2.3.3 拡散
2.3.4 再結合と付着
演習問題
3.電子放出
3.1 仕事関数
3.2 熱電子放出
3.2.1 熱のみによる電子放出
3.2.2 ショットキー効果
3.3 電界放出
3.4 光電子放出
3.5 電子ビームによる二次電子放出
3.6 粒子衝突による電子放出
演習問題
4.気体の絶縁破壊
4.1 非自続放電と自続放電
4.2 タウンゼント理論
4.3 ストリーマ理論
4.4 火花放電への移行過程としてのコロナ放電
4.4.1 コロナ放電の発生条件
4.4.2 コロナ放電の形態
4.4.3 コロナ損・コロナ雑音
4.5 火花放電
4.5.1 火花放電の定義
4.5.2 放電の時間遅れ
4.5.3 火花放電に影響を与えるパラメータ
演習問題
5.放電現象
5.1 定常放電
5.1.1 低気圧直流放電の電気特性
5.1.2 低圧放電の始動性(ペニング効果)
5.2 グロー放電
5.2.1 発光状態と電気特性
5.2.2 陰極降下領域
5.2.3 電極について
5.2.4 陽光柱理論
5.2.5 陽極降下領域
5.3 アーク放電
5.3.1 アーク放電の特徴
5.3.2 電極からの電子放出機構について
5.3.3 アーク放電の陽光柱
5.3.4 放電の応用
演習問題
6.プラズマの基礎
6.1 プラズマの定義と性質
6.1.1 プラズマの定義
6.1.2 プラズマの微視的な見方と巨視的な見方の境界
6.1.3 プラズマの集団としての性質
6.2 シース理論
6.2.1 プラズマと壁の境界
6.2.2 プラズマ計測(プローブ法)
6.2.3 プラズマの種類と計測法
演習問題
7.液体の絶縁破壊
7.1 液体中の電気伝導特性
7.2 液体の絶縁破壊機構
7.2.1 電子的破壊
7.2.2 気泡破壊
7.3 不純物の影響
7.3.1 不純物による破壊
7.3.2 面積・体積効果
7.3.3 ワイブルプロット
7.4 流動帯電
演習問題
8.固体の絶縁破壊
8.1 固体中の電気伝導特性
8.1.1 イオン性伝導
8.1.2 電子性伝導
8.2 誘電分極
8.3 誘電損失
8.4 絶縁破壊理論
8.4.1 電子的破壊
8.4.2 熱的破壊
8.4.3 電気機械的破壊
8.4.4 破壊に影響をおよぼす要因
8.4.5 絶縁破壊の温度特性
演習問題
9.複合系の絶縁破壊
9.1 複合誘電体における電界
9.2 ボイド内での部分放電
9.3 トリーイング
9.4 沿面放電
9.5 トラッキング
演習問題
10.電界と絶縁
10.1 電界計算
10.1.1 静電界の方程式
10.1.2 電解計算法の種類
10.1.3 コンピュータによる電界計算法
10.2 電界緩和法
10.2.1 導体形状と配置
10.2.2 段絶縁
10.2.3 遮へい
10.3 絶縁協調
10.3.1 絶縁協調
10.3.2 絶縁階級と基準衝撃絶縁強度
演習問題
11.高電圧の発生
11.1 交流高電圧の発生
11.2 直流高電圧の発生
11.3 インパルス高電圧の発生
演習問題
12.高電圧と大電流の測定
12.1 実際の送配電系統で高電圧を測定する方法
12.1.1 計器用変圧器
12.1.2 コンデンサ形計器用変圧器
12.2 実験室で高電圧を測定する方法
12.2.1 静電電圧計
12.2.2 火花ギャップ法
12.2.3 倍率器と指示計器
12.2.4 分圧器と計測器
12.2.5 測定方法と測定対象(実験室)
12.2.6 光を利用した測定方法
12.2.7 空間電荷の計測方法
12.2.8 電流積分電荷法(Q(t)法)
12.3 インパルス大電流の測定
12.3.1 分流器とオシロスコープ
12.3.2 ロゴウスキコイル
演習問題
13.高電圧機器
13.1 がいし
13.1.1 懸垂がいし
13.1.2 長幹がいし
13.2 ブッシング
13.2.1 単一形ブッシング
13.2.2 油入ブッシング
13.2.3 コンデンサ形ブッシング
13.3 電力ケーブル
13.3.1 CVケーブル
13.3.2 油入ケーブル
13.3.3 圧力ケーブル
13.4 高電圧コンデンサ
13.5 高電圧整流素子
13.6 断路器
13.7 遮断器
13.8 ガス絶縁開閉装置
13.9 避雷器
演習問題
14.高電圧絶縁試験
14.1 高電圧絶縁試験の種類
14.2 絶縁特性試験(非破壊試験)
14.2.1 直流高電圧試験
14.2.2 誘電正接試験
14.2.3 部分放電試験
14.3 交流高電圧試験
14.3.1 試験条件と試験回路
14.3.2 交流絶縁耐力試験
14.4 雷インパルス電圧試験
14.4.1 雷インパルス絶縁耐力試験
14.4.2 V-t曲線試験
演習問題
15.高電圧応用
15.1 高電界の利用
15.1.1 粒子加速器
15.1.2 走査形電子顕微鏡
15.2 コロナ放電電荷の利用
15.2.1 電気集じん機
15.2.2 電子コピー機
15.2.3 静電塗装
15.3 放電の応用
15.3.1 オゾナイザ
15.3.2 気体レーザ
演習問題
付録
引用・参考文献
演習問題解答
索引