2025
07/30
07/30
身体性とは
身体性とは
〜知能・行動・創発の根源にある“からだ”の力〜
私たち人間の知性や行動は、頭(脳)だけで生まれているわけではありません。手足の動き、筋肉のしなやかさ、環境との関わりなど、身体を通じて世界とつながっていることが、多くの研究で明らかになってきました。このように、身体と環境との相互作用によって知性や行動が生まれるという考え方が「身体性(しんたいせい、embodiment)」です。
身体性とは何か?
「身体性」とは、簡単にいえば、知能・認知・行動が身体と切り離せない関係にあるという考え方です。伝統的な人工知能や哲学では、知能は“脳内”で完結するものと捉えられてきました。しかし、実際には私たちの行動や判断は、身体を通じて形成されます。
- 赤ちゃんは周囲を見て、手を伸ばし、触れて学びます
- プロのピアニストの演奏は、思考というより身体記憶に近いものです
- ロボットの知能も、センサーとアクチュエータ(動く身体)なしには発揮されません
つまり、身体を持つこと自体が、知性の根幹を形作っているのです。
身体性が注目される理由
近年、AIやロボット工学、認知科学などで身体性が重視されている背景には、次のような問題意識があります:
- 「計算だけで動く」AIの限界:机上の論理だけで現実世界の複雑な状況に対応することは難しい
- 環境と身体のリアルタイムな相互作用の重要性
- “感じる・動く・適応する”能力の獲得には身体が不可欠
たとえば、何の制御もなく坂を下るだけで歩き出す「受動歩行ロボット」は、単純な物理構造と重力だけで“知的”な歩行を実現します。そこには明示的なプログラムや学習はなく、身体と環境の関係が知能のような働きを見せています。
身体性はどこで使われているのか?
- 🤖 ロボット工学:身体の形・素材・構造が“知能”を生む。たとえばソフトロボットや群れ型ロボット
- 🧠 認知科学:人間の知覚・学習・感情は身体抜きでは語れない
- 🎨 デザイン・芸術:身体感覚を伴った表現や操作が創造を支える
- 🏫 教育学:体験的・身体的な学びの重要性(例:実験・スポーツ・ダンス)
まとめ:知能の未来に「身体」は不可欠
身体性という考えは、私たちが「知能」や「心」をどのように理解し、どう実装するかという根本に問いを投げかけています。人間らしさとは? 機械はどこまで人間のように振る舞えるのか?その答えのヒントは、「身体を持ち、世界の中で動きながら生きていること」にあるのかもしれません。
📝このページは、コロナ社刊『身体性知能とシステム・制御』の内容をもとに、身体性の考え方をわかりやすく紹介するために作成しました。