07/17
oTreeとは
『oTreeではじめる社会科学実験入門 - Pythonのインストールから実験の実施まで -』の発行にあたって,本書で採り上げている「oTree」というソフトについて簡単に紹介いたします。
◆oTreeとは?
oTreeは,社会科学における実験研究のためのオープンソースのプラットフォームです。2014年にDaniel Chenらによって開発され[1],主に経済学,心理学,政治学などの社会科学領域で広く使用されています。oTreeを利用することで,インターネットを介して,プレイヤー同士のインタラクションのある実験(ゲーム実験)を容易に設計,実施,管理できることにあります。
[1] Chen, D. L., Schonger, M. and Wickens, C. : oTree—An open-source platform for laboratory, online, and field experiments, Journal of Behavioral and Experimental Finance, 9, pp.88-97 (2016)
◆oTreeの特徴
以下には,oTreeの特徴を簡単にまとめました。
l Pythonベース:oTreeはPythonで構築されています。そのために,今までPythonを使った経験がある方は比較的容易に実験を設計できます。特に,現在では高校の情報I/IIの中でもPythonを学ぶこともあり,大学1-2年生でも実験を設計できるでしょう。
l リアルタイムインタラクション:oTreeを用いることで,参加者間のリアルタイムのインタラクションが可能となります。これはゲーム理論に関する実験,オークション,市場シミュレーション,集団意思決定の研究を実施する際に有効です。例えば,複数のプレイヤーが同時に意思決定を行い,その結果がリアルタイムで反映される公共財ゲームなどが実装可能です。
l 複雑な実験デザインの実装:Pythonをベースとしているので,if文などを活用することができます。そのために多段階の意思決定プロセスのある実験,条件分岐や動的な要素を持つ実験など複雑な構造の実験も行うことができます。
l 柔軟なカスタマイズ:実験のインターフェースや進行をHTML,CSS,JavaScriptを使ってカスタマイズできます。そのために,研究ニーズに合わせた独自の実験環境を構築することが可能です。例えば,視覚的な刺激のある認知心理学実験や,複雑な市場メカニズムを解明する経済学実験,投票行動実験や政策選好調査を行う政治学実験など幅広い社会科学実験を実施することができます。
l 様々な規模の実験に対応:oTreeは,小規模なラボ実験から数千人規模の大規模バーチャルラボ実験まで対応可能です。特に,インターネットを介していることから,地理的制約を超えた地域間・国家間比較実験なども実施することができます。
他にも,実験の進捗状況をモニタリングできたり,多言語対応していたりとメリットがたくさんあります。また,実験コードの共有による研究の透明性向上や再現性の高い研究の促進にも貢献することが期待できます。さらには,AIを相手とした実験も実施可能です。
ぜひ,みなさんもoTreeを使って社会科学実験をやってみましょう!
◆社会科学における実験?
昨今では,心理学に限らず,経済学や会計学,政治学といったさまざまないわゆる「社会科学」と呼ばれる研究分野において,「実験」という手法が注目を浴びています。異なる学問領域の研究者が「実験」を共通言語として社会現象を解明し,これからの社会のデザインを試みる「実験社会科学」という新たな学術領域の開拓の試みも行われています。社会科学において,「実験」は1つの大きな武器となりつつあります。