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数理でひもとくAI技術の深化 - ボルツマンマシンとたどる最先端への道 -

数理でひもとくAI技術の深化 - ボルツマンマシンとたどる最先端への道 -

ホップフィールドネットワーク,イジング模型,イジングマシン,ボルツマンマシンを通してAI技術の基礎から最先端を学ぶ。数式を活用しつつ,日本語でも丁寧に説明。理系大学生のみならず,新たな知見や気付きを求める専門家にも。

発行年月日
2025/07/23
定価
2,860(本体2,600円+税)
ISBN
978-4-339-02951-2
在庫あり

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報

読者モニターレビュー【 すず 様 (業界・専門分野:哲学)】

掲載日:2025/07/09

自然言語の文章のような系列データをAIが扱う際には、情報を記憶しそれを適切に利用できる必要がある。従来はニューラルネットワークの構造に再帰的な結合を導入することでデータを逐次的に処理していた(RNN)のに対し、大規模言語モデル(LLM)のアーキテクチャであるTransformerは、注意機構によってデータを並列的に処理している。

以上のようにごく簡単に歴史を整理したとき、注意機構の登場は唐突であるように思われるかもしれない。しかし実は、注意機構は、70年代に登場し発展してきた(甘利・)ホップフィールドネットワークを一般化したものと同一視することができるという。本書第二章は、単純なホップフィールドネットワークの紹介から始まり、それを徐々に一般化していくことで、注意機構を歴史的な文脈に位置づけることを可能にする。

以降の章でも同様に、最先端の話題を単純なモデルを介して扱っている。いずれのモデルの説明においても数式が使われており、また随所に数式の「気持ち」が添えられている。したがって読者は、数理的な正確性を損なうことなく、最先端の話題を直観的に理解することができる。

読者モニターレビュー【 Haruk1y 様(業界・専門分野:機械学習)】

掲載日:2025/07/08

本書の最大の特徴は、ホップフィールドネットワーク、イジング模型、イジングマシン、ボルツマンマシンという一見異なる分野の手法が、実は本質的に同一の数理モデルを基礎としていることを明確に示している点にあります。また、基本のモデルを出発点とした議論の広がりも本書の特徴です。第2章では注意機構まで、第4章では量子アニーリングまで、第5章ではスコアモデルや拡散モデルまでと、現代の機械学習における最先端の話題まで一貫した枠組みで扱われており、分野の歴史的発展を俯瞰できる構成となっています。数式の扱いにも配慮が行き届いており、直感的理解を促すための日本語での説明が併記されています。これにより、数学的な厳密性を保ちながらも、読者の理解を深める工夫が随所に見られます。
基礎的な概念から最先端の応用まで段階的に構成されているため、初学者でも無理なく学習を進めることができる一方で、専門家にとっても新たな視点を得られる深い内容となっていると思います。2024年のノーベル物理学賞受賞により注目が集まっている現在、異なる分野の知見を横断的に学びたい研究者や学生はもちろん、この分野の発展に関心を持つ幅広い読者にとって、極めて価値の高い一冊といえます。

【 yoshiki様(業界・専門分野: Engineering in Medicine )】

掲載日:2025/07/07

本書では、ホップフィールドネットワークから生成AIの拡散モデルまでが一気通貫で解説されています。本書の魅力は、ボルツマンマシンを中心に据え、統計力学・計算量理論・量子計算といった一見別々の領域をまとめて説明し、AI技術に共通する構造をわかりやすく示している点です。

第1章ではホップフィールドネットワークとイジング模型の数理的同型を示し、第2章では連想記憶からTransformerの注意機構へと議論を発展させます。この「古典から現代へ」の橋渡しは丁寧で分かりやすく、読者が無理なく最新の理論へと進めるよう配慮されています。さらに第4章ではイジングマシンを用いた巡回セールスマン問題の実装例を取り上げ、量子アニーリングにも踏み込むため、理論志向の読者にも応用志向の読者にも響く内容となっています。終章に位置付けられたボルツマンマシンと拡散モデルの対比は、生成AIの数理を学びたい方にとって格好のガイドとなるでしょう。

解説では数式を惜しみなく使用しつつも、直感的な理解ができるよう日本語で丁寧に説明しており、微分・積分と確率の基本的な知識があれば大部分を読み進められます。各章末のまとめが要点を端的に再確認させてくれるため、読み進める手が止まりにくいのもありがたいです。

総じて、本書は「ボルツマンマシン=古典的モデル」という固定観念を覆し、AIの現在地と未来像を俯瞰させてくれる稀有な一冊です。2024年にJohn J. Hopfield氏とGeoffrey E. Hinton氏がノーベル物理学賞を共同受賞して注目が高まる今こそ、AIを数理で深く理解したい研究者・エンジニア・学生におすすめです。