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エントロピーの幾何学

シリーズ 情報科学における確率モデル 5

エントロピーの幾何学

測度論的確率論,十分統計量の説明に加え,本書では,測度空間に特別な平行移動を導入することでアファイン空間を構成し,そのうえで幾何学を展開することにより,指数型分布族と非指数型分布族を同時に取り扱える枠組みを提供した。

発行年月日
2019/05/10
定価
3,300(本体3,000円+税)
ISBN
978-4-339-02835-5
在庫あり

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読者モニターレビュー【H様】

掲載日:2019/05/13

まえがきを読むと,『エントロピーの幾何学』というユニークなタイトルは,読者が誤って,甘利俊一氏によって創始された情報幾何(指数型分布族という確率分布のある特別なクラスにおける幾何)の本だと勘違いして本書を手にとることを防ぐためにつけたと書かれている。
では,『エントロピーの幾何学』とは,一体どんな種類の幾何について書かれた本なのか? 実は本書は,情報幾何等,これまでの幾何ではうまく取り扱えなかった非指数型分布族の幾何を展開した本なのである。
おりしも世間は,空前の人工知能(AI)ブームに沸いている.多くの研究者の手により開拓されてきた情報幾何の道具たちは,推定量の有効性評価,ニューラルネットの解析,破滅的忘却を防ぐ正則化項など,人工知能研究に欠くことのできないツール群の一翼を担っているため,情報幾何に対する若い人々のまなざしは日に日に熱さを増している。
こうしたなか,本書は,τ-情報幾何と名付けられた新しい幾何を展開する.情報幾何が,正規分布のような,我々にとって馴染みのある確率分布の幾何を教えてくれたように,τ-情報幾何は,q-正規分布などの,べき型の確率分布の幾何を教えてくれる。q-正規分布などのべき型の確率分布は,非加法的エントロピーの世界とつながっていて,そこでは物理学における非平衡現象や,カオス,フラクラルなどがあらわれる.大変魅力的な幾何なのである。
しかも,本書は,スケール変換を駆使して,加法的エントロピーと非加法的エントロピーを行き来する方法を教えてくれる。当たり前のように書かれているが,大学で統計物理を学んだばかりの学部生に,加法的エントロピーと非加法的エントロピーを行き来する方法がある,なんて教えたら,眼をぱちくりさせて驚くだろう。それだけに留まらない。第11章では,このエントロピーの加法・非加法変換が,素粒子論・宇宙論に登場するホログラフィー原理(AdS/CFT対応)と関連することが示唆される。

参考:田中勝先生の講演スライド「非加法的エントロピーを加法的エントロピーにする方法 ーAdS/CFT対応の情報幾何バージョンー 」
[http://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~afujioka/talk/tanaka.pdf]

本書を読めば,機械学習,物理,数学の分野で,我々が親しんでいる世界の先に,全く新しい未開の沃野が広がっていたことに気付かされるだろう。