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MATLABではじめるプログラミング教室

MATLABではじめるプログラミング教室

MATLAB初心者が実際に手を動かして覚えることを念頭に,基本技術(数値計算,データの読み込み,分析,表示,加工,保存,GUIアプリケーション作成)について丁寧に解説した。「音」に関する楽しい題材を多数掲載。

発行年月日
2017/10/05
定価
2,860(本体2,600円+税)
ISBN
978-4-339-02877-5
品切 最新版あり

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amazonレビュー 978-4-339-02877-5 MATLABではじめるプログラミング教室

掲載日:2019/10/01

素人からプロの研究者・エンジニアになるための丁寧な「橋渡し」の一冊

掲載日:2017/10/16


 合同会社アイキュベータ代表
 博士(工学) 松田雄馬


 本書は,プログラミングの解説書の中では,比較的新しいスタイルを採用しています。
 素人プログラマーからプロの研究者の入口へと導いてくれる「橋渡し」として,利用価値のある解説書なのではないでしょうか。

 MATLABというプログラミング言語は,多くの大学がライセンス契約をしており,大学生であれば,また,大学図書館などを利用できる一般の方々であれば,「気軽に使ってみる」ことができます。特に,MATLABは,数式の演算にも強いので,MATLABを使ってプログラムを動かしてみることは,数学そのものへの理解を深めることにも繋がります。データ処理を行う研究現場でも,MATLABは伝統的に使われています。

 筆者は,工学院大学で教鞭を執っているとのことで,本書を見ながら,本書に書かれているプログラムを自分で打ち込んでみることで,まるで,筆者が隣にいて,一つ一つ丁寧に手ほどきしてくれるような構成になっています。まずはプログラムを打ち込み,それに続いて,数学の解説などの含めて丁寧に行ってくれるので,高校レベルの数学力があれば,無理なくMATLABプログラミングが学習でき,本書を終了する頃には,画像や音声といったデータを自力で処理できるようになるでしょう。

 各章のレビューは以下の通りです。
 まず,第一章は,まずはMATLABというものに触れてみる(プログラミングという作業に触れてみる)ことを目的にしています。中学校で学ぶ二次方程式の「解の公式」を題材に,自分で打ち込んだ数式を計算する方法を学びます。
 第二章では,ループと分岐構造という,プログラムを作るうえで必要な知識を学びます。単に,無味乾燥な説明をするような辞書的な解説書とは異なり,本書では,「グラフを表示する」ということを題材にしながら,実際の研究現場を垣間見つつ,こうした知識を自然に学んでいくことができるような工夫がされています。
 第三章では,長いプログラムを直接打ち込むのではなく,「コマンド」にしていつでも呼び出せるようにする方法を学びます。同時に,三角関数などの関数を,直感的に理解できるための工夫もされています。
 第四章第五章では,グラフの描画を本格的に学びます。グラフの描画は,実際に研究をはじめると,データをまとめる際には必須の作業であり,必要なときに見直すと,更に役立つでしょう。
 第六章では,データの保存方法を学びます。この方法を知っておかないと,データの量が増えてきたときに,「途中経過を観察できない」「途中でコンピュータがフリーズしてしまうと全部計算をやり直さないといけない」など,多くの問題に直面してしまいます。実際に研究をはじめるときには,特に役立つ内容でしょう。
 第七章では,画像データや音声データの取り扱い方を学びます。MATLABは,こうした特殊なデータを取り扱うことが得意です。画像にフィルターをかけてぼかしてみたり,音声を可視化してみたりといったことが自在にできます。Instagramのアプリで行うような写真の加工を行うプログラムを,自分で作ることもできるようになるのです。研究者である筆者の手ほどきを受けながら,挑戦してみましょう。
 第八章では,近年盛んに行われている「データ分析」のはじめの一歩である「最小二乗法」という方法を学びます。これによって,「過去のデータから将来を予測するにはどうすればいいか」ということを,筆者は教えてくれます。
 第九章から第十一章では,筆者の専門分野でもある音声データの取り扱いを学びます。プロの研究者のいるところまで,一気に連れて行ってもらえます。自力で音声データを加工できるようになるので,自分の作ったプログラムで,頑張れば,作曲までできるようになるかもしれません。
 第十二章から第十三章では,「アプリの中身を知る」ことで,毎日目にする様々なプログラムがどのように動いているのかを知ることができるような工夫をしています。

 全体を通して,MATLABというプログラミング言語の仕組みを,実際に手を動かしながら学ぶことによって,数学についての理解も深めながら,読者を,プロの研究者の入口に導いてくれる丁寧な「橋渡し」の書であると言えます。MATLABは,(本書には書かれていませんが)Octaveというフリーソフトを使うことで,本書に書かれていることはほとんど問題なく実行できます。新しいことにチャレンジしたい大学生や,実用的なデータ処理を行うことにチャレンジしたい一般の方には,一読の価値があるのではないでしょうか。