マクロ交通流シミュレーション - 数学的基礎理論とPythonによる実装 -

マクロ交通流シミュレーション - 数学的基礎理論とPythonによる実装 -

  • 瀬尾 亨 東工大准教授 博士(工学)

マクロ交通流について,基礎理論からシミュレーションまでを体系的に解説した。

ジャンル
発行年月日
2023/10/20
判型
A5
ページ数
224ページ
ISBN
978-4-339-05279-4
マクロ交通流シミュレーション - 数学的基礎理論とPythonによる実装 -
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定価

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【書籍の特徴】
本書は,道路網を走り回る多数の自動車の流れ,すなわち交通流を主題とし,その理論モデルとしての定式化とそのシミュレーション法を包括的かつ体系的にまとめたものである.また,その内容をPython製のオープンソース交通流シミュレータとして実装したものも付属している.

【各章について】
第1章「マクロ交通流シミュレーションとは何か」:交通流とは何か,そしてマクロ交通流シミュレーションとは何かを,交通渋滞など一般的な話題と関連付けて説明する.

第2章「交通流の基本要素」:交通流の基本的な要素の数学的定義を,実データの例やシミュレーション上の位置付けと合わせて述べる.例えば道路利用者,ネットワーク,車両軌跡,時空間図,交通状態を解説する.

第3章「マクロ交通流モデルの理論」:マクロ交通流の理論的モデルを述べる.一本のリンクを流れる交通流を一次元流体として記述するリンクモデル,リンク間の分岐・合流を記述するノードモデル,ネットワーク全体での旅行者の行動を記述する需要・経路選択のモデルを定式化し,その理論的解法を詳述する.さらに,マクロ交通流モデルと等価なミクロ交通流モデルを解説する.

第4章「マクロ交通流モデルのシミュレーション法」:第3章で述べた理論的モデルの数値解法であるシミュレーション法を複数述べる.例えば,差分法に基づくもの,変分法に基づくもの,等価なミクロモデルに基づくもの,セルオートマトンに基づくものを,その数式,アルゴリズム,計算例とともに解説する.

第5章「シミュレータの実装」:第4章で述べたシミュレーション法をプログラミング言語Pythonを用いて実装する.プログラムコードも記す.

第6章「シミュレーションの計算例」:第5章で述べたシミュレータの計算例を紹介する.グリッドロックなどの興味深い事例を対象とすることで,理論やシミュレーションの理解のみならず交通現象自体への理解を深めることを意図している.

【読者へのメッセージ】
マクロ交通流シミュレーションは主に交通工学分野での1935年から今日に至るまでの研究成果の集大成です.本書では,交通流の根本的な原理原則からマクロなシミュレーション法,さらには等価なセルオートマトンまでを一貫して論理的に(大げさに言えば公理主義的に)解説しました.シミュレーションは複雑ですが,結局のところ「旅行者は出来るだけ速く,かつ安全に移動したい」という単純な原則を論理的に具体化したものということが伝われば幸いです.抽象的な数学理論を現実の問題解決に役立てる面白さを感じていただき,このトピックに興味のあるあらゆる分野の方々の一助になることを願います.

今日の社会にとって最も普遍的な交通システムは,ネットワーク上を多数の乗りものが行き交うというものであり,これは今後も当面は変わらないであろう。そのようなシステムでは,多数の乗りもの間の相互作用により興味深い現象が生じるほか,乗りものの時間的・空間的集中によって混雑が生じるため,移動の効率性維持のために適切なマネジメントが欠かせない。マクロ交通流シミュレーションとは,まさにそのようなシステムの現象を定量的に再現し,またマネジメントに活かすための方法である。具体的には,これは道路ネットワーク上を流れる多数の自動車により時々刻々変化する交通状況を計算するものであり,交通現象の理解を深めるための実験装置や,実際の問題解決のための道具などとして用いられる。

本書の狙いは,マクロ交通流シミュレーションの基礎から応用までを体系的に解説することである。シミュレーションを動かしたいだけであれば,適当な既存ソフトウェア(本書で実装するシミュレータもインターネット上で公開する)を使えばそれなりの仕事ができるだろう。しかし,これは交通工学分野を中心として1935年から積み上げられた研究成果の集大成であり,その裏には確固たる原理に基づく興味深い数学的理論が存在している。本書は,そのような原理原則,数学的理論,それらの実装法を一貫して記述する。これらに関する深い理解を得られれば,つぎつぎ登場する新たな技術により激変し続ける交通流を,今後も既存ソフトウェアの枠組みにとらわれずに分析できるようになるだろう。それと同時に,抽象的な数学的理論をコンピュータプログラムとして具現化し,実社会の問題解決に役立てる面白さを学んでもらえれば幸いである。

本書で体系的に解説するにあたっては,演繹的な(大げさにいえば公理的な)論理展開を心掛けた。すなわち,観測的事実に基づき少数の第一原理を立て,それに基づいて交通流の数理モデルから数値計算方法までを一貫して導出した。そして最終的に,ブラックボックスのまったくない明解なシミュレータの実装を示した。これにより,物理現象のモデルとしてのマクロ交通流シミュレーションが理解しやすくなると期待する。ただし,本書は数学や理論物理学の教科書ではないので,数学的厳密性は追求していない。原著論文への言及を多めに付けておいたので,証明などに興味がある読者はそちらを参照されたい。

また,本書では最新の研究成果を踏まえた解説とした。マクロ交通流について,基礎理論からシミュレーションまでを体系的に解説している日本語文献は著者の知る限り存在しない。そのため,これまではマクロ交通流を勉強するためには英語の論文を個別に読むのがおもなやり方であったが,本書を使えば最新知識を一貫した視点で学べるものと期待する。また,従来の日本語の交通工学の教科書の多くでは,交通流に関する話題は古典的なものが断片的に記されているのみであり,その意義や有用性を十分に想像しづらいものが多かったと思われる。本書では,古典的な概念と最新の成果の関連性を明確に記述し,生きた知識となるように意図した。

本書は大まかに基礎編,理論編,実装編の3編から構成される。基礎編は1,2章であり,マクロ交通流シミュレーションとは何かを解説したのち,マクロ交通流の基本要素を定義した。動的な交通流を数学的に表現するために必要不可欠な,車両軌跡や交通状態といった重要な概念を説明する。

理論編は3,4章であり,マクロ交通流の理論とシミュレーション法を数学的に解説し,その定性的性質を述べる。マクロ交通流の理論として,あるリンク上の交通流のダイナミクスを記述するリンクモデル,ネットワーク内で隣接するリンク間の交通流のやり取りを記述するノードモデル,ネットワーク上の旅行者のより大局的な意思決定を記述する需要と経路選択のモデルを説明する。そして,シミュレーション法として,差分法に基づくもの,変分法に基づくもの,等価なミクロモデル(エージェントベースモデル)に変換するもの,等価なセルオートマトンに変換するものについて述べる。

実装編は5,6章であり,プログラミング言語Pythonを用いたシミュレータの実装と分析例を解説する(Pythonコードはhttps://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339052794/,https://toruseo.jp/uxsim/からダウンロード可能)。ここでは,任意のネットワークで経路選択を考慮したシミュレーション手法を実装する。Pythonは必ずしも計算効率は高くないが,本書ではその平易さと普及度から採用した。教育用・学術的研究用のシミュレータとしては有用であると考える。なお,基礎編と理論編の内容はプログラミング言語に依存せず,かつ実装に必要な情報を含むように書かれている。そのため,基本的なプログラミング技術を持つ読者であれば,基礎編と理論編を読んだ段階で好きなプログラミング言語を用いて自らのシミュレータを実装できるだろう。

著者は,交通流理論やシミュレーションの第一人者というわけではまったくない。むしろ,それらのほかの問題への応用を専門に研究している者である。だからこそ,利用者の立場ならではの説明ができると考えているし,そうなっていることを願う。

本書で扱う内容を著者が勉強するにあたっては,交通流理論勉強会の面々(和田健太郎先生,中西航先生,佐津川功季先生,柳原正実先生,日下部貴彦先生)に大変お世話になった。また,限られた紙面では列挙できないが,いろいろな機会でのさまざまな方との議論も大変勉強になった。ここに御礼申し上げる。

最後に本書の執筆経緯を記す。執筆開始は2019年3月頃である。2019年6月には全体構成と1,2章がほぼ完成したが,その後COVID-19と著者の異動・多忙を言い訳として大幅な遅延が生じた。間を置いて2022年11月に4章までほぼ完成し,2023年3月に初稿が完成した。コロナ社の方々には大変なご迷惑をおかけした。また,コロナ社の方々の丁寧な編集作業により,初期の原稿にあった数多くの問題(重大な論理的誤りからわかりにくい表現まで)が大きく改善された。ここに深く謝意を表する。

2023年8月
瀬尾亨

本書に掲載するURLは,すべて2023年8月現在である。

1.マクロ交通流シミュレーションとは何か
1.1 背景:自動車交通と渋滞
1.2 マクロ交通流シミュレーション
1.3 本書の内容

2.交通流の基本要素
2.1 道路利用者と交通流
2.2 道路ネットワーク
2.3 車両軌跡と時空間図
2.4 マクロな交通流の表現
 2.4.1 交通状態
 2.4.2 累積台数
2.5 交通システムの全体的な性能評価指標
2.6 実際の交通流
2.7 マクロ交通流シミュレーションの構成

3.マクロ交通流モデルの理論
3.1 交通流保存則
3.2 交通流基本図(FD)
 3.2.1 車両運転挙動と交通流
 3.2.2 流率密度関係
 3.2.3 FDの性質
 3.2.4 FDの実際
3.3 KWモデル:基礎
 3.3.1 密度に基づく定式化
 3.3.2 特性曲線法による古典的解法
 3.3.3 三角形FDに基づくKWモデルの幾何学的解法
コーヒーブレイク:KWモデルと現実の交通流の比較
3.4 KWモデル:累積台数に基づく表現
 3.4.1 定式化
 3.4.2 Newellの単純KW理論
 3.4.3 交通流の変分理論
3.5 KWモデル:追従モデルとしての表現
 3.5.1 KWモデルと交通流の3次元的表現
 3.5.2 KWモデルと等価な車両挙動モデル
 3.5.3 Newellの単純追従モデル
3.6 KWモデル:まとめ
3.7 ノードモデル
 3.7.1 基礎的な定義
 3.7.2 分岐ノード
 3.7.3 合流ノード
 3.7.4 一般ノード
 3.7.5 ダミーノード
 3.7.6 出発地・目的地ノード
3.8 需要と経路選択
 3.8.1 需要
 3.8.2 経路選択

4.マクロ交通流モデルのシミュレーション法
4.1 シミュレーションの流れ
4.2 シミュレーション特有の概念
 4.2.1 座標系の離散化
 4.2.2 シングルコモディティとマルチコモディティ
4.3 リンクモデル:シングルコモディティの場合
 4.3.1 CTM
 4.3.2 Newellの単純KW理論,VT,LTM
 4.3.3 Newellの単純追従モデルとセルオートマトン
4.4 リンクモデル:マルチコモディティの場合
 4.4.1 CTM,VT,LTM
 4.4.2 Newellの単純追従モデルとセルオートマトン
4.5 ノードモデル
 4.5.1 CTM,VT,LTM
 4.5.2 Newellの単純追従モデルとセルオートマトン
4.6 経路選択モデル
4.7 まとめ
コーヒーブレイク:マクロ交通流理論小史
コーヒーブレイク:渋滞はなぜ起きるのか?

5.シミュレータの実装
5.1 プログラミング環境と表記法
5.2 単一リンクシミュレータ
 5.2.1 CTM
 5.2.2 VT
5.3 ネットワークシミュレータ
 5.3.1 シミュレータの構造と計算の流れ
 5.3.2 インポートおよび汎用関数
 5.3.3 メインループ
 5.3.4 ノードクラス
 5.3.5 リンククラス
 5.3.6 車両クラス
 5.3.7 経路選択クラス
 5.3.8 結果分析クラス
 5.3.9 まとめとテスト

6.シミュレーションの計算例
6.1 高速道路単路部のボトルネック渋滞
6.2 道路ネットワークのグリッドロックとMFD
6.3 より現実的なネットワーク
6.4 おわりに

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 もこ 様 (業界・専門分野:交通流シミュレーション(ミクロ))】

交通流の理論パートについては,基本事項が端的に解説され,主要な用語には英訳語も付記されており,交通工学・交通流シミュレーションの初学者が学びを進める際の一助となりうると感じた.一方,交通流シミュレーションに関する記述については,各論の理解・解釈がミクロシミュレーション屋のそれとは随分乖離があるように感じられた.とはいえ,どちらが正しい/正しくないというものでもないと考える.学習者には,本書だけを唯一の教科書とするのではなく,多数の文献に触れ,交通流シミュレーションを多角的に捉えながら探究していくことを勧めたい.

読者モニターレビュー【 大魔神 様 (業務内容:道路交通関連のコンサルティ ングとシステム開発)】

交通工学という学問は、現代社会では日常生活と切り離せない道路交通を対象にしているにもかかわらず、我が国では欧米に比して、その現象や理論について深く理解している専門家が少ないと感じられる。いろいろな理由が考えられるが、その一つに大学をはじめとする教育機関で、交通工学を体系立てて教えているところが少ないことがあると思っている。

本書はマニアックなタイトルではあるものの、工学系の専門課程にいる大学生、大学院生が交通工学の、特に交通流の解析やモデリングに必要不可欠な理論を、初歩的な知識から理論の体系づけまで深く理解することができる良書である。これは、最後にシミュレーションプログラムを作るという、プラグマティックな目標を据え、そこに至るためのステップアップを解説していくという、著者の工夫によるものだろう。理論の解説に微分や積分を含む数式が多用されているが、受験問題のようにそれを解くことを求めているのではなく、「積分=ある量を足し合わせる」、「微分=ある量の変化を見る」といった解釈を充てて、本来の意味を理解することに努めれば、自ずとプログラムのコードが思い浮かぶようになるのではないかと思う。

冒頭の話に戻ると、道路交通の非効率化、すなわち渋滞に起因する社会問題は、時間損失のみならず、環境、エネルギーあるいは物流効率低下、ドライバー不足など多岐にわたり、その解決には専門知識を有したエンジニアの活躍が不可欠である。本書のような教科書を通して、交通工学に触れ、この分野にとどまる若者が増えることを願っている。

瀬尾 亨(セオ トオル)

研究テーマは交通工学とデータサイエンスの融合です.交通システムと情報通信技術をより良い社会の実現に向けて使う方法を,理論とデータに基づき探っています.自動運転,ライドシェアリング,コネクティッドカーなどの新しい技術に特に関心があります.例えば,交通システムの状態を観測データから推定する方法,交通システムの挙動を理解・予測するためのモデル開発,交通混雑を低減しシステムの状態を社会にとって最適にするための制御方法などを研究しています.

掲載日:2024/04/01

交通工学研究会誌「交通工学」第59巻2号

掲載日:2024/03/20

「日経コンストラクション」2024年3月号

掲載日:2024/02/29

土木学会誌2024年3月号

掲載日:2024/01/11

日本経済新聞広告掲載(2024年1月11日)

掲載日:2023/12/19

東大土木・社会基盤同窓会 会員名簿(2023-2024)広告

掲載日:2023/10/31

日刊工業新聞広告掲載(2023年10月31日)

掲載日:2023/10/16

情報処理学会誌2023年11月号

掲載日:2023/10/03

交通工学研究会誌「交通工学」第58巻4号

掲載日:2023/09/29

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