システムバイオロジー

バイオインフォマティクスシリーズ 4

システムバイオロジー

常微分方程式,確率過程,統計的手法等によるシステムバイオロジーのアプローチ法を解説。

ジャンル
発行年月日
2022/11/17
判型
A5
ページ数
198ページ
ISBN
978-4-339-02734-1
システムバイオロジー
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【書籍の特徴】
・生物学分野および情報科学分野の学生・技術者・研究者を主な対象に,システムバイオロジーの基礎から応用までを解説した。
・生命現象をモデリングする上で,オーソドックスな手法から比較的新しい手法までを幅広く取り上げた。
・学際的分野であることから読者の学問的背景が多岐にわたることを想定し,数式に不慣れな読者への読みやすさを保ちつつ,一方で数理的側面からの理解を深めたい読者のために,比較的複雑な数式の導出は付録にまとめている。

【各章について】
1章:システムバイオロジーの基礎的概念について,応用例を通して述べています。
2章:生化学反応モデルから出発して,常微分方程式によって生命現象のダイナミクスをモデリングする手法について述べています。
3章:線形時不変システムを通して,周波数応答を理解します。
4章:確率過程によるモデリングとシミュレーションの方法について,述べています。
5章:常微分方程式モデルのパラメータ推定方法について述べています。
6章:生命現象のブラックボックス的なモデリングを可能とする統計モデルについて,紹介しています。
7章:生命現象を情報処理的な側面から理解するために,情報理論を用いた解析方法について述べています。

【著者からのメッセージ】
システムバイオロジーが学際的分野であることを踏まえ,多くの分野の読者に読みやすくなるように心がけました。また,システムバイオロジーの話題が多岐にわたる中で,中核をなす基本的な概念や手法をできるだけ取り入れるようにする一方,比較的新しい話題についても触れています。

【キーワード】
分子生物学,シグナル伝達,生化学反応,常微分方程式,確率過程,モデリング,周波数応答,数値シミュレーション,パラメータ推定,統計モデル,情報理論,エントロピー

システムバイオロジーの目的は「生物をシステムとして理解すること」であるが,そのためには数理モデルを駆使したデータ解析や数値シミュレーションが欠かせない。その点では,システムバイオロジーは近年の目覚ましい計算機性能の向上と情報科学の進歩の上に成り立っているともいえる。一方で,数理モデルを用いた解析ではデータの定量性が重要であり,システムバイオロジーの発展は測定技術の進歩にも支えられている。すなわち,システムバイオロジーは,情報科学と測定技術の両者の進歩によってもたらされている。そのため生物学の歴史の中では比較的新しい研究分野であって,従来の生物学では対象の定性的理解に留まることが多かったのに対して,数理モデルによってシステムとして記述することで定量的かつより整合的な生命現象の理解を得ることができる。ひいては,システムとしての理解に留まらず,定量性と整合性によって新たな発見がもたらされることを期待している。

システムバイオロジーは目的をベースに構築される学問分野であって,利用する手法が主体となって構築される分野ではない。そのこともあって,システムバイオロジーでは手法に関しては,現状では分野特有の代表的なものがあるわけではなく,生化学における反応速度論や制御工学,情報理論,統計学などの他分野からさまざまな技術がもち寄られて分野が成立している。したがって,用いられている手法は多岐にわたるため,本書においてはできるだけ広く基本的かつ主要なものをカバーすることを心掛けたが,その対象の広さと著者の限られた力量もあり,カバーしきれていない部分もある点はご寛容いただけるとありがたい。

1章では,理解しやすいように近年の研究例を交えて,システムバイオロジーの概念を説明している。生化学反応をベースにしたシステムの記述と数値シミュレーションがよく用いられていることから,2章では常微分方程式による決定論的なシステムについて述べる。常微分方程式システムの中でも線形時不変システムとなる場合には,システムの入出力特性を周波数応答を通して特徴づけることができることを3章で述べる。4章では,2章と同じように生化学反応をベースにしているが決定論的ではなく,確率論的にシステムを記述し,数値シミュレーションを行う方法について述べる。2章から4章までが順問題を対象としているのに対して,5章と6章では,データセットからパラメータや入出力関係を推定する逆問題を対象としている。5章では,2章で述べた常微分方程式システムのパラメータをデータセットから推定する方法について述べる。一方で6章では,ブラックボックスとしてシステムを捉える,統計モデルによる入出力関係のモデリングと推定方法について述べる。脳などに比べて細胞などの比較的低次の情報処理に対して,情報理論を適用した情報伝達の解析について7章で述べる。7章の前半で情報理論の基礎について説明し,後半で解析方法と適用例について述べる。また,全体を通して数学的な記述に関しては,数学的な厳密性よりも直観的な理解を優先するようにした。

本書は,大学初年級における教養課程相当での微分積分と線形代数の基礎を学んだ学部生以上を読者に想定して書いた。本書をきっかけに,一人でも多くシステムバイオロジーに興味をもつ読者が増えてくれれば幸いである。

早稲田大学理工学術院の浜田道昭氏には,本書を執筆する機会をいただいた。浜田氏に加えて,大阪大学蛋白質研究所の飯田渓太氏,広島大学大学院統合生命科学研究科の藤井雅史氏,九州大学生体防御医学研究所の久保田浩行氏および松崎芙美子氏には,原稿を読んでいただき貴重なご意見をいただいた。また,東京大学大学院理学系研究科の黒田真也氏からはご厚意により,PC12細胞の画像データおよびERK,c-FOSの測定データをご提供していただいた。各氏に深く感謝を申し上げたい。最後に,本書を担当してくださったコロナ社編集部の方々に心から感謝を申し上げたい。

2022年2月
宇田新介

1.システムバイオロジーの基礎的概念
1.1 システムバイオロジーとは
1.2 生物学の基礎
1.3 いくつかの例
 1.3.1 ERK経路のモデル
 1.3.2 血糖値の制御
 1.3.3 出芽酵母の浸透圧ストレス応答

2.常微分方程式(ODE)モデル
2.1 生化学反応モデル
2.2 時定数
2.3 逐次反応と定常状態近似
2.4 酵素反応
2.5 過感応性
 2.5.1 n次応答
 2.5.2 0次過感応性
2.6 アダプテーション
 2.6.1 フィードフォワードループ制御
 2.6.2 フィードバックループ制御
2.7 ヒステリシス
2.8 振動
 2.8.1 2次遅れシステム
 2.8.2 FitzHugh-Nagumoモデル

3.線形時不変システム
3.1 重ね合わせの理
3.2 伝達関数
3.3 周波数応答

4. 確率過程による反応モデル
4.1 ポアソン分布
4.2 ポアソン過程による生化学反応の記述
4.3 確率モデルの数値シミュレーション
 4.3.1 Gillespie法
 4.3.2 γ-leaping法
4.4 その他の確率的反応の記述法
 4.4.1 化学マスター方程式
 4.4.2 化学ランジュバン方程式
4.5 数値シミュレーションの例
 4.5.1 酵素反応
 4.5.2 遺伝子発現
4.6 内因性ノイズと外因性ノイズ

5.パラメータ推定
5.1 順問題と逆問題
5.2 最小2乗法によるパラメータの推定
 5.2.1 最小2乗法
 5.2.2 進化的プログラミング
 5.2.3 勾配法
 5.2.4 人工モデルの例:最小2乗法
5.3 ベイズ推定によるパラメータの推定
 5.3.1 ベイズ推定
 5.3.2 ベイズ推定によるパラメータの推定
 5.3.3 最小2乗法との関係
 5.3.4 メトロポリス・ヘイスティングスアルゴリズム
 5.3.5 人工モデルの例:ベイズ推定
5.4 適合のよさ
5.5 モデル選択
5.6 感度解析

6.統計モデル
6.1 線形回帰モデル
6.2 主成分分析
6.3 主成分回帰モデル
6.4 部分最小2乗回帰モデル
6.5 部分最小2乗回帰モデルの適用例

7.情報理論的アプローチ
7.1 生命の情報処理
7.2 情報理論の基礎
 7.2.1 情報とはなにか?
 7.2.2 情報量
 7.2.3 簡単な通信のモデル:2元対称通信路
 7.2.4 細胞内情報伝達のモデル化
 7.2.5 相互情報量の基本的性質
 7.2.6 微分エントロピー
 7.2.7 ガウス通信路
7.3 分布の推定
 7.3.1 適応分割法
 7.3.2 B-スプライン関数を用いる方法
 7.3.3 カーネル密度推定法
 7.3.4 k近傍を用いた情報量の推定
7.4 生物システムへの応用例
 7.4.1 ショウジョウバエの発生におけるBicoid-Hunchbackシステム
 7.4.2 BushモデルとTreeモデル
 7.4.3 経路による情報量の寄与
 7.4.4 時系列の相互情報量

付録
A.1 常微分方程式の解法
 A.1.1 変数分離形
 A.1.2 1階ODE
 A.1.3 2階ODE
A.2 特異値分解
A.3 ポアソン分布
A.4 化学マスター方程式の導出
A.5 η_int,η_extの導出
A.6 Blahut-Arimotoアルゴリズム
A.7 k近傍を用いた情報量を推定する式の導出
A.8 σ_g(c)が小さいとき,および大きいときの通信路容量の近似

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 EN 様(ご専門:進化生物学・バイオインフォマティクス )】

以前からシステムバイオロジーという概念を知っていたものの、具体的にどのような数理モデルが用いられているか、このような学際的な分野を学ぶために何から学べば良いか分からない状態であった。そのような私にとって、本書は基本的な数理モデルとそのモデルに必要な数学的手法などの一連の学習の道筋を示してくれた。また、本書は実践よりも理論の学習に重きを置いており、腰を据えて読む必要があると感じた。
第1章では、生化学反応をモデル化したいくつかの例を示している。この例は後々の章で何度も参照するため、生化学的経路の図などを手元に置いて、数式と生命現象を紐付けながら各章を読み進めるのが良いと思う。第2〜5章は、常微分方程式、ラプラス変換、フーリエ変換、ベイズ統計などの背景知識を必要とする。これらの章のモデルはある程度、生化学反応の知見が蓄積しているモデル生物を扱う読者に特に有用かもしれない。一方、6章では線形代数を背景知識とした、部分最小2乗回帰モデル等を扱っている。このモデルでは刺激と応答のみからモデルを構築できるため、生化学反応の知見に乏しい生物を扱う読者の研究に活かせるかもしれない。情報理論を応用した細胞の情報伝達に関して述べている第7章では、20世紀のシャノンの情報理論の基礎や比較的最近の1細胞レベルでの解析の参考文献が紹介されており、キャッチアップに役立った。生命をシステムとして分析する研究者だけでなく、生命システムを理解して再構築する合成生物学学者などにも有用な一冊であると思う。

読者モニターレビュー【 こんがり@創薬 様(ご専門:創薬研究 )】

システムバイオロジーに関して体系的に学べる書籍は新しいものがなく、新たな参考書の登場を待望していた。
システムバイオロジーは、生命科学系研究者であれば一度は耳にしたことあると思うが、その概念が抽象的でイメージしにくいという人も多いのではないだろうか。本書では、1章でシステムバイオロジーについて「生物システムを数式化すること」と具体的に定義しており、はじめにその曖昧さが排除されることでスムーズに読み進めることができる。 続く2章-4章では、システムバイオロジーの基本となる常微分方程式モデルといった具体的な理論を数式を交えて説明してあり、各モデルの基本的な概念を学ぶことができるし、数式を追うことでその理解はより深まるよう構成されている。個人的には、これまで生化反応を濃度論で考えることが当たり前と思っていたが、4章での確率論で生化学反応をモデル化する考え方は、新たな気付きを得るとともに非常に腑に落ちるもので、今後の研究の参考になった。
5章以降は、実験データからモデルのパラメータを推定する方法について詳細に記載してあり、より実践に近い内容である。概念・知識を学んだだけでは、いざ実践しようとするとどうすれば良いか分からず、行動できないことも多い。その点本書は、知識習得だけで終わらせず、学んだ内容を自分の研究に昇華させることができるよう構成されており、これからシステムバイオロジー研究をはじめたい研究者にとっては最適であろう。
このように、本書は概念・知識の習得から実務までシステムバイオロジーを体系的に学べる良書であり、初学者やこれからシステムバイオロジーをはじめる研究者にとって、常に手の届く場所に置いておきたい書籍である。

読者モニターレビュー【 ずみ 様(ご専門:がん免疫治療、ベイジアンネットワーク、予後予測解析 )】

システムバイオロジーというとまずは微分方程式によるモデル化を思いつく人が多いだろう。自分もこの本が届くまではその印象しかなく、実際に本書の前半では簡単な微分方程式の表現から始まりフィードバック機構の表現などが簡潔に、しかし自分のような初学者でも理解できる範疇で記述されている。高校化学で学ぶ微分方程式や化学平衡の理論さえわかれば読めるようになっているのがとても有難い。しかし本書の特徴は後半部分にあると思う。ベイズ法によるパラメータ推定や線形モデルとそのモデル選択手法の解説に限らず、特に類書では取り上げられないような部分最小二乗法についても触れているという点で現代の”データサイエンス"と呼ばれるような手法についても広く解説されている書籍と解釈することもできることから読者層が極めて広い本ではないだろうか。また、最後には情報理論的アプローチについても解説されている。情報をエントロピーを持つものと考えて熱力学的に表現する手法にもつながる内容であり、カバーしている範囲の広さに驚かされた。

浜田 道昭

浜田 道昭(ハマダ ミチアキ)

早稲田大学 理工学術院 教授

2002年 東北大学大学院 理学研究科 数学専攻 修士課程修了
2009年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 知能システム科学専攻 博士後期課程修了(社会人博士),博士(理学)

(株)富士総合研究所 研究員,東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任准教授,早稲田大学 理工学術院 准教授を経て,2018年より現職.

バイオインフォマティクス全般,特に,生物の配列情報を解析するための情報技術の開発とそれらの医学・薬学分野への応用研究を行っている.近年は,タンパク質に翻訳されない天然のRNAであるノンコーディングRNAや人工のRNAを薬とする核酸医薬などを対象にした「RNA情報学」の研究に注力をしている.

宇田 新介(ウダ シンスケ)

日本バイオインフォマティクス学会ホームページ 掲載日:2022/06/16


掲載日:2023/09/05

人工知能学会誌「人工知能」2023年9月号

掲載日:2023/02/01

「日本バイオインフォマティクス学会ニュースレター」第42号

掲載日:2023/01/27

医療情報学会誌「医療情報学」42巻4号

掲載日:2022/12/13

日本生物物理学会誌「生物物理」Vol. 62 No. 6

掲載日:2022/10/17

情報処理学会誌「情報処理」2022年11月号広告

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