基礎から学ぶスイッチング電源の要素デバイス  - パワー半導体デバイス,コンデンサ,インダクタ -

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 2

基礎から学ぶスイッチング電源の要素デバイス - パワー半導体デバイス,コンデンサ,インダクタ -

ジャンル
発行年月日
2024/05/30
判型
A5
ページ数
238ページ
ISBN
978-4-339-01452-5
基礎から学ぶスイッチング電源の要素デバイス  - パワー半導体デバイス,コンデンサ,インダクタ -
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定価

4,180(本体3,800円+税)

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基礎学問の習得に重点を置いた勉強を通して,より高いレベルで議論できるパワエレ技術者を目指してほしいとの思いから「シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用」を刊行する運びとなった。本シリーズは,大学における工学教育と企業における実践教育の橋渡しを想定しており,物理現象のイメージをもとに理論面をやや重視した内容になっている。シリーズ全体を通した学習によってインバータやコンバータなどの設計はもちろん,機器の故障・動作不良に際して科学的な方法で原因を究明し,問題解決にあたる高度な技術者になることを期待している。

シリーズ第2巻の本書は,前半でパワー段においてスイッチ機能を果たす半導体デバイスを取り上げ,後半(7章以降)では,受動素子のコンデンサとコイル(トランス)を取り上げる。

1章では,半導体の電気抵抗,アバランシェ降伏,電子・正孔の発生・再結合など,デバイスの電気特性を理解する前提の半導体電子物性を学習する。2章では,パワーデバイスを構成する基本要素デバイス(ダイオード,バイポーラ素子,MOSFETなど)を取り上げ,半導体の電子物性に基づく基本素子の構造とその電気特性を学ぶ。3章では,2章の基本要素デバイスを組み合わせたパワーデバイス(縦型パワーMOS素子,IGBT)の構造とその特性を理解し,4章では,シリコンに代わるワイドバンドギャップ半導体のSiC-MNOSFETならびにGaN-HEMTを説明する。将来的に前者は高電力変換用途に,後者は高速スイッチング用途に普及していくものと期待されている。5章では,寄生キャパシタ,インダクタがパワー素子の動的特性に及ぼす影響やスイッチング損失と素子温度など,半導体パワーデバイスの実践面での課題を取り上げ,6章では,パワー半導体素子で発生したジュール熱の放熱方法を熱伝導工学に基づいて説明する。

コンデンサの性質・性能は使用する誘電体材料に大きく依存する。7章では,まず誘電率や誘電損失の起源を原子・分子レベルの誘電体材料に基づいて説明する。コンデンサの実装にあたっては,これら誘電体材料の物性を十分考慮したうえで,回路設計に当たることが重要である。8章では,コイルを構成する強磁性体材料と巻線に関するヒステリシス損・渦電流損(鉄損)や表皮効果・隣接効果(銅損)を電磁気学に立ち戻って説明する。9章では,磁気回路の概念を使って,エアギャップの役割やインダクタンスの計算方法を理解し,10章では,トランスの動作原理や漏れインダクタンスの原因などを説明する。9章と10章は本シリーズ第5巻で説明している絶縁型コンバータの動作原理を理解するための前準備である。巻末には,本書で説明している要素デバイスに関して深く学びたい方に向けて参考文献を挙げている。

スイッチング電源回路は,系統電源経由で送られてくる電力を無駄なく利用することが最優先される。さらに,電源回路の長期信頼性まで担保するには,使用電子部品の材料物性から素子動作,放熱の方法,回路応用に至るまで,幅広い技術分野の知識が必要である。

スイッチング電源回路は,図1に示すように,コンデンサ,コイル,スイッチからなる電力変換回路(パワー段)と,制御回路とで構成されている。出力電圧の負帰還制御については本シリーズ第3巻で詳しく説明しているが,本書ではパワー段で使用する電子部品(コンデンサ,コイル,半導体デバイス)の機能・性能・信頼性を扱う。





本書の前半では,パワー段においてスイッチ機能を果たす半導体デバイスを取り上げる。

1章では,半導体の電気抵抗,アバランシェ降伏,電子・正孔の発生・再結合など,デバイスの電気特性を理解する前提の半導体電子物性を学習する。2章では,パワーデバイスを構成する基本要素デバイス(ダイオード,バイポーラ素子,MOSFETなど)を取り上げ,半導体の電子物性に基づく基本素子の構造とその電気特性を学ぶ。3章では,2章の基本要素デバイスを組み合わせたパワーデバイス(縦型パワーMOS素子,IGBT)の構造とその特性を理解し,4章では,シリコンに代わるワイドバンドギャップ半導体のSiC-MOSFETならびにGaN-HEMTを説明する。将来的に前者は高電力変換用途に,後者は高速スイッチング用途に普及していくものと期待されている。5章では,寄生キャパシタ,インダクタがパワー素子の動的特性に及ぼす影響やスイッチング損失と素子温度など,半導体パワーデバイスの実践面での課題を取り上げ,6章では,パワー半導体素子で発生したジュール熱の放熱方法を熱伝導工学に基づいて説明する。

本書の後半(7章以降)では,受動素子のコンデンサとコイル(トランス)を取り上げる。電気回路におけるコンデンサとコイルの役割は本シリーズ第1巻で説明しているが,スイッチング電源回路で使用する現実の受動素子は本シリーズ第1巻で学習した理想的な特性と違っており,これらの素子が原因で回路が想定外の動作をしたり,長期的に回路動作が不安定になることもある。

コンデンサの性質・性能は使用する誘電体材料に大きく依存する。7章では,まず誘電率や誘電損失の起源を原子・分子レベルの誘電体材料に基づいて説明する。コンデンサの実装にあたっては,これら誘電体材料の物性を十分考慮したうえで,回路設計にあたることが重要である。8章では,コイルを構成する強磁性体材料と巻線に関するヒステリシス損・渦電流損(鉄損)や表皮効果・近接効果(銅損)を電磁気学に立ち戻って説明する。9章では,磁気回路の概念を使って,エアギャップの役割やインダクタンスの計算方法を理解し,10章では,トランスの動作原理や漏れインダクタンスの原因などを説明する。9章と10章は本シリーズ第3巻~第5巻で説明している絶縁型コンバータの動作原理を理解するための前準備である。


巻末には,本書で説明している要素デバイスに関して深く学びたい方に向けて参考文献を挙げている。

本書で得られるパワー段を構成する部品の特性や材料物性に関する知識は,電源システムに適した部品(パワー素子,コンデンサ,コイル)を選択するときや,信頼性の高いスイッチング電源回路の設計時,スイッチング電源の故障の原因究明時にはきっと役に立つ。

最後に,1章と2章の一部の図面を提供いただいた大阪工業大学の鎌倉良成教授に感謝します。

2024年3月
谷口研二

1. 半導体物性
1.1 シリコン結晶中の電子および正孔濃度
1.2 半導体の電気伝導
1.3 衝突電離(インパクトイオン化)現象
1.4 電子と正孔の再結合

2. パワー半導体素子の基本デバイス構造
2.1 ダイオード
 2.1.1 pn接合の空乏層幅と静電容量
 2.1.2 pn接合ダイオードの耐圧
 2.1.3 ダイオードの電圧・電流特性
 2.1.4 現実のpn接合ダイオード特性
 2.1.5 ダイオードの種類
2.2 ダイオードの用途
 2.2.1 整流回路
 2.2.2 pn接合ダイオードの逆方向回復特性
 2.2.3 PiNダイオード
2.3 電流を制御する基本素子構造
 2.3.1 バイポーラ素子
 2.3.2 MOS型デバイス

3. パワー半導体デバイス
3.1 縦型パワーMOS素子
 3.1.1 縦型パワーMOS素子
 3.1.2 スーパージャンクション縦型パワーMOS素子
 3.1.3 トレンチ構造縦型パワーMOS素子
 3.1.4 アバランシェ降伏
3.2 IGBT
 3.2.1 IGBTのラッチアップ
 3.2.2 IGBTと縦型パワーMOS素子の使い分け

4. 化合物パワー半導体デバイス
4.1 SiCデバイス
 4.1.1 SiCショットキー障壁ダイオードの用途
 4.1.2 SiCショットキー障壁ダイオードの構造
 4.1.3 SiC縦型パワーMOS素子
4.2 GaNデバイス
 4.2.1 GaNデバイス
 4.2.2 GaNデバイスの特性劣化
 4.2.3 GaNデバイスの逆方向電流特性

5. 回路中のパワーデバイスの過渡応答
5.1 縦型パワーMOS素子の端子間容量
5.2 ゲート容量の回路特性への影響
5.3 縦型パワーMOS素子のターンオン・ターンオフ過程
 5.3.1 ゲート容量と配線インダクタンスの共振(リンギング)
 5.3.2 ゲート駆動法の工夫
5.4 GaNデバイスの課題
5.5 ダブルパルス試験
 5.5.1 ターンオフ過程
 5.5.2 ターンオン過程

6. パワーデバイスの熱解析
6.1 熱伝導の物理
6.2 発熱素子温度の定常解
6.3 発熱素子温度の過渡解
 6.3.1 熱インピーダンス
 6.3.2 熱インピーダンスのパラメータ抽出法
 6.3.3 パルス発熱時の最大上昇温度
 6.3.4 繰り返し発熱によるチップ温度の上昇

7. コンデンサ
7.1 誘電体の物性
 7.1.1 原子レベルで見た分極の種類
 7.1.2 誘電体の分極と複素誘電率
7.2 コンデンサ
 7.2.1 コンデンサの周波数特性
 7.2.2 コンデンサの用途
 7.2.3 コンデンサの種類
7.3 電解コンデンサ
 7.3.1 湿式アルミ電解コンデンサの電気特性
 7.3.2 湿式アルミ電解コンデンサの寿命
 7.3.3 導電性高分子電解コンデンサ
 7.3.4 電解コンデンサの漏れ電流と誘電吸収
7.4 フィルムコンデンサ
 7.4.1 フィルムコンデンサの種類と材料
 7.4.2 各種フィルムコンデンサの特徴
 7.4.3 誘電吸収と絶縁抵抗
 7.4.4 自己修復
7.5 セラミックコンデンサ
 7.5.1 常誘電体セラミックコンデンサ(クラス1)
 7.5.2 強誘電体セラミックコンデンサ(クラス2)
 7.5.3 強誘電体セラミックコンデンサの特性
 7.5.4 セラミックコンデンサのまとめ
 7.5.5 異種コンデンサの並列接続による反共振現象

8. コイル
8.1 磁性の起源
 8.1.1 軟磁性体
 8.1.2 フェライトの構造とその特性
 8.1.3 スイッチング電源回路における磁性体の役割
8.2 コイルの蓄積エネルギーと電力損失
 8.2.1 蓄積エネルギー
 8.2.2 コイルの電力損失
8.3 現実のコイルにおける注意事項
 8.3.1 自己共振周波数
 8.3.2 インダクタンスの電流依存性

9. インダクタと磁気回路
9.1 コイルの磁気エネルギー
 9.1.1 磁性体コイル
 9.1.2 エアギャップのある磁性体コアのコイル
9.2 市販コイルの構造

10. トランス
10.1 トランスの等価回路モデル
10.2 トランスの作製
 10.2.1 材料(磁性体コア,被膜銅線)の選択
 10.2.2 銅線の巻き方
 10.2.3 静電遮蔽(ファラデーシールド)

引用・参考文献
索引

谷口 研二

谷口 研二(タニグチ ケンジ)

学生時代、大学と大学院に8年間在学しましたが、そのうちの2年間は全く学校には行かず、冬はスキー三昧、それ以外の季節は学生割引を使って一人旅をしていました。その報いでしょうか大学院を中退することになって、あまり気乗りのしない社会人になりました。入社した(株)東芝では11年間勤務し、集積回路製造技術の開発に従事しました。その間、留学先のMITでは会社に縛られない自由を知り、チャンスがあれば会社を辞めようと考えていました。帰国後、(株)東芝超LSI研究所の製造ラインを立ち上げて、お世話になった(株)東芝に恩返しをした後、意を決して1986年に大阪大学工学部に籍を移しました。そこでの25年間、学生と一緒にプロセス/デバイスシミュレーション、半導体デバイス工学、アナログ回路設計などを気ままに研究し、議論を通して多くのことを学生から学びました。すべての公職を退いた現在は、これまでに得た知識を産業界の若手技術者に還元すべくパワエレ回路教育に専念しています。
今から60年前を思い起こすと、当時最先端のトランジスタラジオで使われてた部品は数十個程度であり、電子部品さえ手に入れば、子供でもラジオの作製が可能でした。しかし1980年代の後半からのCMOS集積回路の台頭により、多くの回路がデジタル化されたことで、ハードウエアに加えてソフトウエアも重要視される時代になってきました。
スイッチング電源回路でも、コンデンサ、コイル、スイッチで構成されるコア部を駆動するために集積回路が使われています。さらに制御系全体のデジタル化が進むと、システム全体の動作を理解することは難しく、パワエレシステムの開発・製造には数多くの技術者が関わることになるでしょう。これからの技術者は開発チームのメンバーの一員として、自己の専門性を高めながらも仲間の技術分野を補佐する能力が求められます。技術革新の激しい分野の技術者にとって、技術分野を横断する幅広い知識を獲得して、それを製品に具現化し続けることは、逃れようのない宿命なのかも知れません。積極的に他の技術分野に挑戦し、新産業の芽を創出されることを期待しています。