基礎から学ぶコンバータ回路におけるEMI対策

シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用 4

基礎から学ぶコンバータ回路におけるEMI対策

電磁気学に立ち戻り,原理・原則に基づいてしっかりとEMIの原因究明とその対策を知ろう

ジャンル
発行年月日
2023/12/20
判型
A5
ページ数
198ページ
ISBN
978-4-339-01454-9
基礎から学ぶコンバータ回路におけるEMI対策
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定価

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パワーエレクトロニクスの要であるスイッチング電源回路(インバータやコンバータ)は,配電系の電力を負荷が必要とする電力形式(電圧や電流の振幅,周波数,相数など)に変換する役割を担っている。この電源回路は,組み込まれている部品の種類(半導体スイッチ,コイル,コンデンサ,トランス,制御ICなど)が多種多様であるため,パワエレ技術者は電気回路,半導体デバイス工学,制御理論,電子回路,熱伝導工学,実装技術,電磁気学など多岐にわたる知識が必要となる。なかでも,最近のパワエレ技術の爆発的な普及には,その頭脳にあたる制御用マイクロプロセッサの発展が大きく関わっている。制御回路ICが低コストで提供され,スイッチング電源回路の普及が進むことで,ますます高度なディジタル処理技術の知識も必要になってきた。
そこで,無駄なエネルギーを使わず,少しの努力で最大の効果を得るべく分野横断型の基礎学問の習得に重点を置いた勉強をして,しっかりと基礎を固めてより高いレベルで議論できるパワエレ技術者を目指してほしいとの思いから「シリーズ 基礎から学ぶスイッチング電源回路とその応用」を刊行する運びとなった。
本シリーズは,大学における工学教育と企業における実務教育の橋渡しを想定しており,物理現象のイメージや理論面をやや重視した内容になっている。シリーズ全体を通して学ぶことで,インバータやコンバータなどの設計はもちろん,機器の故障・動作不良に際して科学的な方法で原因を究明し問題解決にあたる高度な技術者になることを期待している。

シリーズ第4巻の本書は,前半の1章から7章で,パワーエレクトロニクス回路で特に配慮すべきスイッチングによる電磁界ノイズ(EMI: electromagnetic interference)の発生原因とその解決法を電磁気学の理論に基づいて説明する。スイッチング電源回路の電力損失を抑える最善の方法は,回路の無駄な動き(電圧・電流の振動)を極力排除することにある。電磁界発生の少ない配線を心掛けるだけでも電流・電圧に無駄な動き(振動)が減り(電磁界放射の低減),必然的に省エネになる。後半の8章以降では,回路技術の視点から,パワー素子の電力損失や過剰ストレスの低減法,コイルやトランスに関係する発熱要因とその解決法など,実践的な省エネ・スイッチング電源の部分回路技術を扱う。

電磁気学にまで立ち戻って基礎を勉強し直し,原理・原則に基づくEMIの原因究明とその対策を知ることは,より高度な設計者への近道である。まずは,基本となるマクスウェルの電磁界方程式を基にノイズ発生のメカニズムとその伝搬現象を理解するところから始めよう。

スイッチング電源回路のサイズはおおむね発熱量(電力損失)で決まる。これは,ヒートシンクや空冷用扇風機など,放熱システムをイメージすると理解できる。コンパクトなスイッチング電源回路を設計するには,回路部品の電力損失を減らすことが最も効果的である。特にスイッチング電源回路では,スイッチング素子,コイル,トランスなどでの電力損失だけでなく,電磁界による誤動作防止用の保護回路で無駄に消費される電力損失にも配慮しなければならない。

本書の前半では,パワーエレクトロニクス回路で特に配慮すべきスイッチングによる電磁界ノイズ(EMI : electromagnetic interference)の発生原因とその解決法を電磁気学の理論に基づいて説明する。スイッチング電源回路の電力損失を抑える最善の方法は,回路の無駄な動き(電圧・電流の振動)を極力排除することにある。電磁界発生の少ない配線を心掛けるだけでも電圧・電流に無駄な動き(振動)が減り(電磁界放射の低減),必然的に省エネになる。

後半(8章以降)では,回路技術の視点から,パワー素子の電力損失や過剰ストレスの低減法,コイルやトランスに関係する発熱要因とその解決法など,実践的な省エネ・スイッチング電源の部分回路技術を扱う。

コンバータで使用する電子回路(制御回路)の役割は,送信側(送り手)の信号(情報)を正しく受信側(受け手)に伝えることである。人ごみの中での会話を思い浮かべると,大声の人がいると情報伝達がうまくいかない。スイッチング電源回路でも同様,信号より大きなノイズ(雑音)が混入すると受け手が誤って動作する可能性がある。電気システムでは,ノイズを発生しない回路設計とノイズ環境下でも正常に動作する回路設計が重要である。

最近のスイッチング回路の高周波化(電磁環境の悪化)に伴い,作製した電子回路の誤動作が増えている。この原因を究明しないまま,対処療法でごまかしても,つぎの試作品でまた同じ問題が再燃する。この機会に電磁気学にまで立ち戻って基礎を勉強し直し,原理・原則に基づくEMIの原因究明とその対策を知ることは,より高度な設計者への近道である。

まずは,基本となるマクスウェルの電磁界方程式を基にノイズ発生のメカニズムとその伝搬現象を理解するところから始めよう。

「彼を知り己を知れば百戦危うからず」

2023年10月
谷口研二

1. 電磁界の発生メカニズム
1.1 交流電磁界
 1.1.1 放射電磁界と近傍電磁界
 1.1.2 波動インピーダンス
 1.1.3 電気回路における電気双極子と磁気双極子
1.2 放射電磁波の伝搬

2. 近傍電磁界による電磁障害
2.1 配線のインダクタンス
 2.1.1 自己インダクタンス
 2.1.2 相互インダクタンス
2.2 電磁障害(EMI)の低減法
 2.2.1 プリント基板の活用
 2.2.2 電流ループ面積の削減
 2.2.3 ホットループ面積の削減
 2.2.4 入力コンデンサの対称配置による磁界の相殺
2.3 スイッチング素子のインダクタンス低減法
2.4 コモンモード電流によるEMI
2.5 配線間のクロストーク
 2.5.1 配線間のクロストーク(ノイズ伝搬)
 2.5.2 クロストーク(誘導伝搬)の低減法

3. 放射電磁界の遮へい
3.1 放射電磁波の金属表面での反射と透過
3.2 電磁波の金属中での減衰
3.3 金属板による近傍電磁界の遮へい効果
 3.3.1 電気双極子起因の近傍電磁界の遮へい
 3.3.2 磁気双極子起因の近傍電磁界の遮へい

4. 伝導性ノイズの低減法
4.1 電源ラインフィルタ
 4.1.1 チョッピング波形に含まれる高調波
 4.1.2 電源ラインフィルタの構成
 4.1.3 コモンモードノイズの透過率
 4.1.4 ノーマルモードノイズの透過率
4.2 電源分配回路網
4.3 プリント基板レイアウトの基本
 4.3.1 スイッチング電流経路の特定とGND配線
 4.3.2 コンバータのレイアウト
 4.3.3 パワー段のレイアウト
 4.3.4 制御ICの配置
 4.3.5 パワーGNDとアナログGND

5. 分布定数回路
5.1 特性インピーダンスと反射係数
5.2 伝送線路を伝わる電圧・電流の速度
5.3 伝送線路のインピーダンス
 5.3.1 終端短絡時の入力インピーダンス
 5.3.2 終端開放時の入力インピーダンス
 5.3.3 定在波の発生

6. スイッチング電源回路における電力損失
6.1 ダイナミック電力損失
 6.1.1 パワーMOS素子のオン・オフ動作特性
 6.1.2 ドレイン電流変動時間
 6.1.3 ドレイン電圧変動時間
 6.1.4 パワーMOS素子のダイナミック電力損失
 6.1.5 ゲート駆動回路の電力損失
 6.1.6 ドレイン容量の充放電による電力損失
 6.1.7 ダイオードの逆回復時の電力損失
6.2 定常(スタティック)電力損失
 6.2.1 パワーMOS素子のオン抵抗損失
 6.2.2 ダイオードの電力損失

7. スナバ回路
7.1 RCスナバ
 7.1.1 寄生素子パラメータの抽出
 7.1.2 スナバの抵抗とキャパシタの適正値
7.2 充放電型RCDスナバ
7.3 放電阻止型RCDスナバ

8. 非絶縁型コンバータの電力損失の低減法
8.1 パワーMOS素子の電力損失
 8.1.1 ターンオフ時の電力損失
 8.1.2 ターンオン時の電力損失
8.2 同期整流方式
 8.2.1 デッドタイムの設定
 8.2.2 SRパワーMOS素子のダイナミック消費電力
 8.2.3 ブートストラップ回路
 8.2.4 ハイサイドのパワーMOS素子のターンオフ過程
 8.2.5 パワーMOS素子のゲート抵抗
 8.2.6 SRパワーMOS素子の条件
 8.2.7 逆方向電流の防止

9. 絶縁型コンバータ
9.1 フライバックコンバータの基本動作
 9.1.1 漏えいインダクタンスの影響
 9.1.2 RCDクランプ
 9.1.3 RCDクランプの電力消費
 9.1.4 ダイオードのRCスナバ
 9.1.5 同期整流方式のフライバックコンバータ
9.2 フォワードコンバータ
 9.2.1 動作原理
 9.2.2 コアリセットの方法

10. 入力フィルタ
10.1 入力フィルタ付きコンバータの伝達関数
 10.1.1 理想的なコンバータの入力インピーダンス
 10.1.2 入力フィルタのインピーダンス
10.2 現実のコンバータの入力インピーダンス
10.3 ダンパ付き入力フィルタ

11. コンバータ特性に影響する部分回路
11.1 ポストLCフィルタ
11.2 シャントレギュレータTL431
11.3 フォトカプラ

付録 ベクトルポテンシャルによる磁界分布の計算
参考文献
索引

谷口 研二

谷口 研二(タニグチ ケンジ)

学生時代、大学と大学院に8年間在学しましたが、そのうちの2年間は全く学校には行かず、冬はスキー三昧、それ以外の季節は学生割引を使って一人旅をしていました。その報いでしょうか大学院を中退することになって、あまり気乗りのしない社会人になりました。入社した(株)東芝では11年間勤務し、集積回路製造技術の開発に従事しました。その間、留学先のMITでは会社に縛られない自由を知り、チャンスがあれば会社を辞めようと考えていました。帰国後、(株)東芝超LSI研究所の製造ラインを立ち上げて、お世話になった(株)東芝に恩返しをした後、意を決して1986年に大阪大学工学部に籍を移しました。そこでの25年間、学生と一緒にプロセス/デバイスシミュレーション、半導体デバイス工学、アナログ回路設計などを気ままに研究し、議論を通して多くのことを学生から学びました。すべての公職を退いた現在は、これまでに得た知識を産業界の若手技術者に還元すべくパワエレ回路教育に専念しています。
今から60年前を思い起こすと、当時最先端のトランジスタラジオで使われてた部品は数十個程度であり、電子部品さえ手に入れば、子供でもラジオの作製が可能でした。しかし1980年代の後半からのCMOS集積回路の台頭により、多くの回路がデジタル化されたことで、ハードウエアに加えてソフトウエアも重要視される時代になってきました。
スイッチング電源回路でも、コンデンサ、コイル、スイッチで構成されるコア部を駆動するために集積回路が使われています。さらに制御系全体のデジタル化が進むと、システム全体の動作を理解することは難しく、パワエレシステムの開発・製造には数多くの技術者が関わることになるでしょう。これからの技術者は開発チームのメンバーの一員として、自己の専門性を高めながらも仲間の技術分野を補佐する能力が求められます。技術革新の激しい分野の技術者にとって、技術分野を横断する幅広い知識を獲得して、それを製品に具現化し続けることは、逃れようのない宿命なのかも知れません。積極的に他の技術分野に挑戦し、新産業の芽を創出されることを期待しています。

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