生き物から学ぶ まちづくり - バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策 -

生き物から学ぶ まちづくり - バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策 -

都市を生き物としてとらえ,都市がどのような病理に侵されているかを示し,「生き物に教えを乞う」という観点から解決策を模索する。

ジャンル
発行年月日
2018/10/10
判型
A5
ページ数
128ページ
ISBN
978-4-339-05260-2
生き物から学ぶ まちづくり - バイオミメティクスによる都市の生活習慣病対策 -
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定価

1,980(本体1,800円+税)

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都市を生き物として見たときにわが国の都市がどのような病理に侵されているかを示し,それをどのように診断し,どう免疫力や再生力を高めて活力を取り戻すかについて,「生き物に教えを乞う」という観点から新たな解決策を模索する。

生き物と都市はよく似ている。たとえれば,道路は血管,住宅やオフィスは一つひとつの細胞であり,道路は大動脈のような幹線道路から路地裏の毛細血管までがネットワークとして展開している。また,生き物も都市もいずれも活動を続けるためのエネルギーを摂取することが必要で,排泄物や廃棄物が生じることも共通である。さらに両者とも,「成長し」「新陳代謝し」「健康であろうとし」「病気にもなり」「怪我もし」「治癒し」「老化し」「再生し」,そして「進化する」。このように両者を対比していくと,じつはなにからなにまでよく似ている。これは,都市で困ったことがあれば,生き物から学べることが非常に多いということにほかならない。

しかし,このことは都市計画の専門家でもまったく気づいていないのが実情である。その一つの原因として,土木や建築分野の入試ではいずれも「物理」が必修で,あとせいぜい「化学」が選択科目となっていることが挙げられる。壊れないものをつくるという観点から,力学を知っていることが都市づくりの大前提となり,それはもちろん大切なことではあるが,その強い常識が現在まで連綿と続いている。四角い固い構造物をどうつくるかという「力学的」視点に重点が置かれた結果,丸くて柔らかい「生物」という領域に目が行く専門家を養成しようという仕組みにはならなかったのだ。

今,わが国の都市は,それを生命体と見ると老化や生活習慣病に相当する不都合が蔓延しており,どの都市にもそれぞれの症状に的確な対応を下せるかかりつけの「まち」医者が必要な状況になっている。しかし,そのようなニーズを満たすだけの専門家は,その量においても質においても全然足らない状況である。多くの都市では素人判断による思い込みに基づくさまざまな誤った処方がなされており,都市の病やまいは一向によくなる気配が見えない。本書を著すことになった主たる動機は,この本を手に取られたあなたが,あなたのまちの「まち」医者になってほしいという切実な思いである。

本書は,従来の都市計画専門書とはまったく異なる「生き物に教えを乞う」という観点から新たな解決策を模索しようとするものである。構成としては,まずわが国の都市がどのような病理に侵されているのかを具体的に整理する。そのうえで,生き物がその機能を維持するために身に付けているアポトーシス(細胞の自殺)と,一般的な細胞の壊死であるネクローシスという二つの「細胞死」現象をヒントとして,なにを考えなければならないかを提示する。さらに,診断という観点からどう都市を見るか,また免疫力や再生力をどうやって高めて活力ある都市を取り戻すのかについて考察する。最後に生き物の進化を学ぶことで,都市の今後のあり方についても言及する。

じつは,このように生き物を規範としてそこからなにかを学ぶ学問は,バイオミメティクス(biomimetics)として総称されている。第1章で述べるように工学の分野では「ものづくり」という視点からバイオミメティクスが以前より着目されており,広く研究が進められるとともに,実際の実務にもすでに多くの優れた提案がなされている(第1章の文献2)~8)を参照)。一方で都市計画やまちづくりの分野においてはそのような着想を有する研究者はきわめて少なく,実務との連携も弱く,まったく遅れているというのが正直な感想である。本書を著す試みが,まちづくりにおいてバイオミメティクスの豊かな発想を活かす一つのきっかけになるのであれば,それは望外の幸である。

なお,本書で紹介する事例や考え方の中には,実際の生物学や生き物の仕組みと深い論理でつながっているものもあれば,そうではなくて単なる見かけだけで似ているものも含まれている。生物学の専門家から見れば異論を差し挟まれる部分があるかもわからないことをあらかじめお断りしておきたい。そのような場合がもしあれば,まちを良くしていくうえでのわかりやすい比喩として生き物の力を貸していただいているということでご理解いただければありがたい。

2018年8月 谷口 守

1. バイオミメティクスと本書の構成
引用・参考文献

2. 生活習慣病(成人病)に侵される都市
2.1 メタボリック症候群(肥満)
2.2 高血圧
2.3 骨粗しょう症
2.4 がん
2.5 細胞老化
2.6 冷え性
2.7 糖尿病
2.8 引きこもり・鬱
2.9 突然死のリスク
引用・参考文献

3. アポトーシスに学ぶまちづくり
3.1 アポトーシスとは
3.2 生活習慣病に効くコンパクトなまちづくり
3.3 フィンガープランで水かきを消せ!
3.4 あまねく救う千手観音
3.5 減築ダイエットで居住環境改善
3.6 循環器官への応用
3.7 都市の輪廻と細胞死の事前セット
3.8 活力を生むためのアポトーシス
3.9 シードバンク:仮死状態のまちを復活
引用・参考文献

4. ネクローシスを避けるまちづくり
4.1 ネクローシスをどう避ける
4.2 「ウサギとカメ」の教え
4.3 「守る」コストを考える
4.4 切れた指は急いで縫合
4.5 無駄も大事,リダンダンシー
4.6 再生できる都市,できない都市
4.7 まちの多様性保全を
4.8 君子は豹変する?
引用・参考文献

5. まちを診断する
5.1 「まち」医者の重要性
5.2 都市カルテ・地区カルテ
5.3 カルテ利用の展開
5.4 都市ドックの必要性
5.5 可視化する
5.6 診断のポイント
5.7 アーバントリアージを問う
引用・参考文献

6. 免疫力・再生力の高め方
6.1 寝たきり都市を防止する
6.2 都市の適応力を見直す
6.3 身の丈にあった暮らし方を
6.4 循環器官が活力を決める
6.5 バランスを考える
6.6 共生関係を構築する
6.7 半透膜を取り入れる
6.8 まちの「格」に立ち返る
6.9 まちにも「性」がある
6.10 白血球はあなた自身
引用・参考文献

7. そして,都市の未来を考える
7.1 フロンティアはどこにある?
7.2 進化へのチャレンジ
7.3 メタモルフォーゼ(蛹化)が実現できるか
7.4 進化的に安定な都市を考える
7.5 ネオテニー(幼形成熟)が示すこと?あなたのまちからつぎの進化が??
引用・参考文献

あとがき
索引

読者モニターレビュー 【ふじわらともこ様(色彩、デザインディレクション、芸術教育(こども))】

 私達が暮らす「まち」は、
生き物かもしれない。
そう実感し、新たな視点がみつかる一冊です。

 2018年は、未曽有の災害に見舞われた年でしたが、
力学的視点に重点が置かれた構造物でさえも
自然の猛威にはあっさりと
のみ込まれてしまう現実を
見せつけられました。

災害により
直視せざえるを得なくなった「まち」の生態。

そんな病に侵された「まち」の姿についても
紹介されていたのは興味深く感じました。

 さらに、生き物の進化の観点から
都市(まち)の未来についても
著者は語っています。

 災害の多かった今年、
改めて都市(まち)を生き物の観点から
みつめ直してみることは、
この国に住む私達に与えられた「宿題」
かもしれません。

私達が暮らす「まち」は生き物なのだからー
★~~~~~
 個人的にも文系の私でも読みやすく、本の装丁次第で研究書だけのカテゴリーで販売されるのは、勿体ないのではと感じるほどでした。著者の文章はとても読みやすく通勤途中でもあっという間に読めそうです。

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谷口 守

谷口 守(タニグチ マモル)

所属:筑波大学システム情報系社会工学域 教授
専門分野:都市地域計画、交通計画、環境計画
研究室名:近未来計画学研究室 Lab. for Urban Transformation
研究室HPトップより:
われわれの暮らす都市や地域はまるで「生き物」のようです。新たに産まれて元気に輝く都市があれば、病気や老化する地域もあります。このため、ドクターやカウンセラーが都市・地域にも必要ですが、その質量は圧倒的に不足しています。当研究室では、先見性のある科学的な空間計画を通じ、サステイナブルで、そしてクリエイティブな明日の暮らしの実現をめざします。

「運輸政策研究」2019年版 一般社団法人運輸総合研究所 掲載日:2019/04/04

夕刊読売新聞2018年10月2日「READ&LEAD」欄 掲載日:2018/11/19

掲載日:2024/04/01

交通工学研究会誌「交通工学」第59巻2号