格子ボルツマン法・差分格子ボルツマン法 - DVD付き -

格子ボルツマン法・差分格子ボルツマン法 - DVD付き -

優れた特徴を持つ流体シミュレーション法である格子ボルツマン法と偏微分方程式を対象としている差分格子ボルツマン法について説明。

  • DVD付
ジャンル
発行年月日
2018/12/17
判型
A5
ページ数
144ページ
ISBN
978-4-339-04658-8
格子ボルツマン法・差分格子ボルツマン法 - DVD付き -
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定価

2,420(本体2,200円+税)

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本書は,優れた特徴をもつ流体シミュレーション法である格子ボルツマン法と偏微分方程式を対象としている差分格子ボルツマン法について説明をした。また,さまざまな格子ボルツマンモデルについて紹介している。

本書の旧版(「格子気体法・格子ボルツマン法―新しい数値流体力学の手法―」,コロナ社)が出版されてから18年ばかりが過ぎた。幸い旧版はほかに類書がなかったこともあって,多くの読者に受け入れられたようである。しかし当然ながら,格子Boltzmann法はこの間著しい発達を遂げた。

この度コロナ社から改訂版の話があり,少し考えたがお引き受けすることとした。著者の中ではこの分野はそろそろ店じまいということで,論文別刷など処分を始めていたところであったからである。それと著者の神戸大学での研究自体,少し世界全体から見て主流から外れたところがあると感じてもいた。

具体的にいうと,著者の研究室では格子Boltzmann法そのものではなく,差分格子Boltzmann法をおもに進めてきたのである。詳細は本文で述べているが,格子Boltzmann法が離散化された方程式を対象としているのに対し差分格子Boltzmann法は基本的に偏微分方程式を対象としている。
著者自身は,その偏微分方程式を差分で解くということを調べているうちに,著者なりにさまざまなことが見えてきたように思える。そして,本書ではそのことについてもいくつか述べている。
著者はこの研究を始める前は,このテーマに大きな期待はしていなかった。しかし,研究を進めるに従い,この研究には流体の多くの要素が絡んでいて流体現象を理解するおおいなるヒントが潜んでいると考えるようになった。とりあえず,格子Boltzmann法を使ってみようという読者にはやや難しいかもしれないが,少し述べていく。
格子Boltzmann法はChapman-Enskog展開という近似によって,流体力学でなじみ深いNavier-Stokes方程式が出てくる。そうすると,「格子Boltzmann法񀀽Navier-Stokes方程式の解法」ということになりそうであるが,なかなかそうはいかない。Chapman-Enskog展開がそのまま成り立たない領域,正確にいうと展開の高次の項が無視できない領域があり,その領域ではNavier-Stokes方程式での流れと異なった流れとなってしまう。

しかし,その領域がどこにあるのかはなかなかわかりにくい。古い解説にもこの点についてなにも書いていない。これは,流れが偏微分方程式で表されるとしても,各項の大きさが領域によって異なってくるということであるが,これは方程式には出ていない。これを理解するには,流れの物理面に対する理解が必要である。私はイメージする力だと思うが,実際にそこでなにが起こっているか,流体現象に対する透察力がないとわからない。

格子Boltzmann 法は離散化BGK 方程式を基礎としており,Navier-Stokes方程式ではないということは別の視点から流体を見ることができ,むしろ流体現象に対する理解が深まると考えている。Navier-Stokes方程式の限界などは,Navier-Stokes方程式だけ扱っていては見えてこない。これが,格子Boltzmann法を使っていると見えてくる。
また,流体といっても気体,液体があり,Navier-Stokes方程式では圧縮性・非圧縮性モデルとして理想化してとらえられる。液体であってもわずかながら圧縮性はある。これらの特性は格子Boltzmann法のモデルでは,間接的にであれ粒子間の力(分子間力に対応)を導入することにより,液体を再現できる。

また,これらさまざまな流体の特性の変化は,結局は格子Boltzmannモデルにおける局所平衡分布関数を変えることで達成できるのである。つまり,さまざまな力学的な特性の違いも,単にその局所平衡状態が異なるだけであるということがわかるのである。もちろん,密度の違いなどを表現するには,なんらかの工夫が必要である。
そして,格子Boltzmann法の計算モデルとNavier-Stokes方程式との最大の違いは,おそらく前者が粒子ごとの線形波動方程式を解くのに対し,後者は複雑な非線形連立偏微分方程式を解くことであろう。そのうえ,前者の波動方程式は信号が一定速度で一定方向に伝播するという,非常に簡単な微分方程式を解くことになる。

つまり格子Boltzmann法は,そのモデルの特徴,そして計算法における優れた特徴を持つ流体シミュレーション法であり,従来の流体シミュレーション手法とは少し違ったアプローチとなる。
本書では,著者が関わったさまざまな格子Boltzmannモデルについて紹介している。これらのモデル開発にいろいろとご指導いただいた関係の皆様,そして実際に開発を推し進めてもらった当時の学生諸君には,この場を借りて感謝の意を表したい。特に旧版の共著者であった,片岡武氏および高田尚樹氏には本研究の原動力となって進めていただいた。ご両人の研究のますますの発展を祈念している。さらに,今回の改訂についてお世話いただいた,コロナ社の方々に感謝いたします。

2018年10月 蔦原道久

1. 流体力学の基礎
1.1 流体とはなにか
1.2 流体運動を支配する方程式
1.3 Reynolds数
1.4 Navier-Stokes方程式の近似
 1.4.1 Reynolds数が非常に大きい場合
 1.4.2 Reynolds数が小さい流れに対する近似方程式
1.5 音波の式
1章の要点

2. 偏微分方程式に対する数値計算法
2.1 1次元発展方程式
2.2 差分法
2.3 時間積分法
 2.3.1 Euler 1次前進差分
 2.3.2 陽的高次前進差分
2.4 空間差分
 2.4.1 1階微分に対する差分
 2.4.2 2階微分に対する差分
 2.4.3 風上差分と数値粘性
2.5 保存形表示と対流形表示
2.6 高次風上差分スキーム
2.7 風上差分スキームについて
2.8 一般曲線座標系での差分形
2章の要点

3. 格子Boltzmann法
3.1 格子Boltzmann法の歴史
 3.1.1 格子気体法
 3.1.2 初期の格子Boltzmannモデル
3.2 離散化BGKモデル
3.3 格子Boltzmann法で用いられる格子
3.4 2次元格子BGKモデルの局所平衡分布関数
 3.4.1 2次元9速度モデル
 3.4.2 局所平衡分布関数の性質
3章の要点

4. 差分格子Boltzmann法およびほかの離散化法による定式化
4.1 従来の格子Boltzmann法の位置づけ
4.2 差分格子Boltzmann法
4.3 Chapmann-Enskog展開
 4.3.1 連続の式
 4.3.2 運動方程式
 4.3.3 エネルギー方程式
4.4 境界条件
 4.4.1 バウンスバックと鏡面反射
 4.4.2 局所平衡分布関数での定義
 4.4.3 流入・流出境界条件
 4.4.4 周期境界条件
4.5 ALE法の応用
 4.5.1 ALE法の定式化
 4.5.2 移動座標と静止座標の接合
4.6 固体境界面でのNavier-Stokes方程式の解からのずれ
4.7 有限体積法の応用
 4.7.1 FVLBMの定式化
 4.7.2 2点と1次微係数による準3次精度風上スキーム
 4.7.3 修正分布関数の導入
4.8 スペクトル法の応用
4章の要点

5. 格子Boltzmann法におけるモデル
5.1 非熱流体モデル
5.2 熱流体モデル
5.3 完全にNavier-Stokes方程式を回復するモデル
5.4 比熱比を自由に設定できるモデル
5.5 差分格子Boltzmann法特有のモデル
5.6 局所平衡分布関数に付加項を加えることにより得られる方程式
 5.6.1 離散化BGK方程式に対する付加項について
 5.6.2 密度成層流
5.7 混相流モデル
 5.7.1 界面分離モデル
 5.7.2 表面張力モデル
 5.7.3 高密度比2流体
 5.7.4 液体の圧縮性の考慮
 5.7.5 非Newton流体モデル
5.8 蒸発・凝縮現象のシミュレーション
5章の要点

6. 付属のプログラムについて

付録
1. 等方性テンソル
 A. 直角座標でのテンソル
 B. 等方性テンソル
2. 格子気体法および格子Boltzmann法でのテンソル
 A. 格子と等方性テンソル
 B. 正多角形での等方性テンソル
 C. 正多面体での等方性テンソル
 D. 規則的格子

参考文献
索引

読者モニターレビュー 【ながれ様(大学教員,専門:流体力学)】

 本書は数値流体計算の手法の一つである「格子ボルツマン法」について扱っている。著者は1999年に同社から「格子気体法・格子ボルツマン法」を出しているが、本書はその大幅な改定版として位置づけられるであろう。ページ数はわずかに減少したものの、付属のFDがDVDとなって充実したことと価格が安くなったことは大いに評価できる。
 内容としては、旧著は比較的歴史の浅い同手法についての初期の和書として普及に一定の役割を果たしたが、詰め込み過ぎの感があり、構成上少々無理がある部分もあった。本書は旧著のそのような欠点が解消され、大幅に読みやすくなっている。新たに同手法を勉強しようと考えている学生や研究者には習得が容易になったことと思う。また、旧著発刊後20年近くの同手法の進展が取り込まれていて、取り扱われている例も同手法が有利であるものにシフトしている。旧著を持っている人も本書を入手する価値はあるであろう。

蔦原 道久(ツタハラ ミチヒサ)

掲載日:2023/09/25

可視化情報学会誌2023年10月号

掲載日:2021/05/06

計算工学会誌「計算工学」Vol.26 No.2

★付属DVDの内容★
差分格子ボルツマン法での計算例を10例収録しています。
プログラムはFORTRANで書かれており,実行ファイルで計算を実行できます。計算パラメータを変更して実行することもできます。また,プログラムの内容もすべて公開しており,自由に書き換えてお使いいただくこともできます。

内容は下記の10のプログラムです。
1. 円柱まわりの2次元流れ
2. トンネルドン
3. ジャイロミル風車
4. 液滴落下
5. 液柱崩壊
6. 遷音速流
7. 3次元BVI
8. 蒸発凝縮1気体
9. 蒸発凝縮2気体
10. 音場のベンチマーク