エネルギー変換工学

機械系コアテキストシリーズ C-3

エネルギー変換工学

  • 鹿園 直毅 東大生産技術研究所教授 博士(工学)

熱力学,エネルギー変換の知識と目的を実際の機器の設計や運用に生かすための入門的解説書

ジャンル
発行年月日
2023/04/10
判型
A5
ページ数
144ページ
ISBN
978-4-339-04536-9
エネルギー変換工学
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定価

2,420(本体2,200円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介
  • 広告掲載情報

エネルギー変換の基礎となる学術は熱力学ですが,熱力学については苦手意識を感じている人も多いのではないでしょうか。いきなり抽象的な概念や状態量などが天下り的に数多く出てきたり,難しい数式が展開されていたりすることが,多くの人に熱力学が難解だと感じさせる理由ではないかと思います。ただし,エンタルピーやエントロピーなどが導入されたのはそれなりの背景や理由があり,その動機や視点は非常にシンプルです。自分が実際に冷凍サイクルや燃料電池の設計に関わった経験からも,なぜエンタルピー,エントロピー,ギブス自由エネルギーといった状態量が導入されたのか,そしてそれらがいかに便利なのか,これらを知ることが理解の近道だと考えます。
本書は,大学の学部等で熱力学を一度学んでエンタルピーやエントロピーなどの名前はもちろん知ってはいるものの,それらを使いこなしてエネルギー機器を設計することなどについて,今一つ自信が持てない大学院の学生やあらためて勉強し直したいと思っている設計者の方々等を対象に執筆しました。本書とすでにお持ちの基礎的な熱力学の教科書とをセットで,ぜひ熱力学の実用的な意味を理解していただき,将来のエネルギー機器の研究開発に活かしていただければ幸甚です。

【キーワード】 エネルギー変換,熱力学,仕事,エクセルギー,熱,状態量,熱機関,電池

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

地球温暖化防止や,燃料や素材といった天然資源の安定供給は,わが国だけでなく全世界的にもますます重要な社会課題となっている。産業革命以降発展してきたこれまでのエネルギー技術は,化石燃料や資源が安価で大量に安定に供給されることを前提にしたものであり,今後はエネルギー供給,転換,需要,循環など,あらゆる場面で技術の大幅な見直しが必要となってくる。技術開発においても,これまでは開発の方向性は所与のものでなにをすべきか明確だったものが,今後はなにをすべきかという出発点から考え直さなければならない時代となった。この大きなパラダイムシフトを乗り越えるためには,原理原則に立ち返ってゼロベースでなにが最善なのかを考える力が不可欠であり,熱力学はそのための最強の知識体系であり,基礎基盤を与えるものである。ただ,熱力学に苦手意識を感じ,実用的に使いこなすことに不安を覚える人も多いと思われる。

本書は,大学の学部などで熱力学を一度学んでエンタルピーやエントロピーなどはもちろん知ってはいるものの,その意味や使い方について,いま一つ自信がもてない大学院の学生や,熱力学についての知識をさらに深めて実際の機器設計に生かすために改めて勉強し直したい社会人などを主な対象としている。そのため,大学の学部教育で学ぶ熱力学について最低限の知識はすでにもっていることを前提として,熱力学第一法則や熱力学第二法則,状態量などの熱力学の基本的な内容の解説については最小限なものにとどめている。このような基礎的な内容は他の一般的な熱力学の教科書に譲り,本書は高効率なエネルギー変換機器の設計やエネルギー利用を目指す上で,熱力学を使いこなすための基本的な考え方や実用的な意味を学ぶことについて焦点を絞ったものとなっている。したがって,すでに所有している通常の熱力学の教科書も本書の横に携えてセットで読んでいただきたい。

熱力学は工学の中心をなす学問の一つであるが,実はとても実用的で便利な知識体系でもある。エネルギー資源の有効利用や地球温暖化防止も,その解決のためには熱力学を理解することが不可欠であり,熱力学を知らずしてエネルギー・環境問題は語れないといっても過言ではない。いきなり抽象的な概念や状態量などが天下り的に数多く出てきたり,難しい数式が展開されていたりすることが,多くの人に熱力学が難解だと感じさせる主な理由ではないかと思う。

エンタルピーやエントロピーなど,一体なんの役に立つのだろうと思う人も多いかもしれない。しかしながら,これらが導入されたのはそれなりの背景や理由があり,その動機や視点は非常にシンプルなものである。なぜ,エンタルピー,エントロピー,ギブス自由エネルギーという状態量が導入されたのか,そしてそれらがいかに便利なのか,といったことを認識することが理解の近道だといえる。一言でいえば,エネルギー利用においては「仕事」および「熱」を知ることが主たる目的であって,「状態量」はどちらかといえば結果として系内で変化するものであり,また「仕事」と「熱」を利用するという目的を実現するために必要となる単なる手段だということである。外界(周囲)にいるわれわれにとっては,系とやり取りする「仕事」と「熱」(そのうち特に仕事)こそが重要であって,「仕事」と「熱」がどれだけ取り出せるのか(あるいはどれだけ投入する必要があるのか)を議論するために,それに対応して系の内部で変化する状態量を考えるのである。

このように便利に定義された状態量のおかげで,やり取りする「仕事」と「熱」がどれだけの総量なのか(第一法則),そしてそのうち特に重要な「仕事」が最大どれだけ取り出せるのか,そしてどれだけ目減りするのか(第二法則),といったことを簡単に知ることができる。本書では,このように他の熱力学の教科書とはやや異なった表現で熱力学を記述するが,この見方に立つと,熱力学がいかに便利でありがたい知識体系であるかがよく理解できると思う。

本書では,エネルギー利用の目的である「仕事」や「熱」から見たときに,熱力学がどのように体系づけられているのか,そしてそれをエネルギー機器の設計や利用にどのように活用できるのかについて学ぶ。なお,太陽光や風力といった再生可能エネルギーは変動型電力が将来にわたって大きく増加することが期待される。このような変動型再生可能エネルギーを貯蔵・備蓄する意味でも,電池や電気化学による電力と化学エネルギーの高効率変換は今後とも非常に重要であり,本書ではこれまで機械工学の分野ではあまり扱われてこなかった電気仕事についても扱う。また,本書では機械工学,化学,電気化学など,これまでそれぞれが独自に発展してきた分野の内容を扱っているため,圧力の単位にbarやatmが混在していたり,kgやmol基準であったり,その都度慣例に従ったものを使用している。読まれる際には,ご注意願いたい。

最後に,本書が将来のエネルギー問題を解決してくれるであろう若い方々に少しでもお役に立てば幸甚である。

2023年2月
鹿園 直毅

1.「仕事」と「熱」の総量
1.1 概要
1.2 定圧の閉じた系
1.3 定常流動系
1.4 膨張仕事(絶対仕事)と工業仕事
1.5 非膨張仕事
演習問題

2.「仕事」と「熱」の内訳
2.1 概要
2.2 可逆プロセスにおける仕事と熱の識別
2.3 不可逆プロセスの仕事と熱
2.4 定温・定圧プロセスの最大非膨張仕事
2.5 定温・定圧プロセスにおける自発変化
演習問題

3.「状態量」の求め方
3.1 概要
3.2 標準生成エンタルピー
3.3 標準生成ギブス自由エネルギー
3.4 ギブス自由エネルギーの圧力依存性
3.5 化学ポテンシャル
3.6 フガシティーと活量
3.7 化学平衡
3.8 相平衡
演習問題

4.エクセルギー(有効エネルギー)
4.1 概要
4.2 エクセルギーとギブス自由エネルギー
4.3 エクセルギー率100%のエネルギー
4.4 温度が一定の熱源のエクセルギー
4.5 閉じた系のエクセルギー
4.6 定常流動系のエクセルギー
4.7 燃料のエクセルギー
4.8 熱交換のエクセルギー損失
4.9 タービンとコンプレッサーのエクセルギー損失
4.10 ランキンサイクルとブレイトンサイクルのエクセルギー
4.11 冷凍サイクルのエクセルギー
4.12 エクセルギーから見た火力発電の効率の変遷
演習問題

5.電池
5.1 概要
5.2 電池の電位差
5.3 標準電極電位
5.4 ネルンストの式
演習問題

6.エネルギー問題と熱力学
演習問題

引用・参考文献
演習問題解答
あとがき
索引

鹿園 直毅

鹿園 直毅(シカゾノ ナオキ)

1994年,東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了,博士(工学)。同年,株式会社日立製作所機械研究所に入社し,空調機の熱交換器や低騒音ファンシステムの開発に携わる。2002年より東京大学大学院工学系研究科助教授として,固体酸化物形燃料電池(SOFC)やヒートポンプサイクルの新技術に関する研究に従事。2010年より,東京大学生産技術研究所教授。

掲載日:2023/11/07

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掲載日:2023/09/19

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