捜索理論における確率モデル

シリーズ 情報科学における確率モデル 3

捜索理論における確率モデル

捜索理論について,初学者でも学べるように確率論や最適化理論,ゲーム理論などの捜索理論を理解するために必要な基礎理論から解説。

ジャンル
発行年月日
2019/03/22
判型
A5
ページ数
296ページ
ISBN
978-4-339-02833-1
捜索理論における確率モデル
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定価

4,620(本体4,200円+税)

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【読者対象】
本格的に捜索理論(または探索理論)を学びたいと思っている学生や研究者はもとより,「私達の身の回りに見出だせる問題を数理的に分析したい」と考えている読者も対象としています。これは,捜索理論がそのような分析手法の体系をもつオペレーションズ・リサーチ(OR)の一分野として発展したものであるため,実世界における意思決定問題への理論の具体的な適用手順を習得できるからです。

【書籍の特徴】
7章と10章では,数理的分析には欠かせない一般理論である「最適化理論」(線形計画法,非線形計画法,動的計画法及び変分法)と「ゲーム理論」の重要な定理や理論について,役立つことや応用を第一義として書いています。そのため,これらの理論に興味のある学生が,捜索理論に関連するその他の章をスルーして,7章と10章だけを読んでいただいても,理論の核となる部分を端的に学ぶことができます。
私達を取り巻く実世界には様々な意思決定場面があり,その問題を解くためには,まずはそれを記述・定義して,自分の目前に明示するところから始めなければいけません。それができれば,後は上記のような一般理論の大海の中でこれまで開発され蓄積されてきた解法が利用できるかもしれません。このような問題の記述・定義の作法についても,本書により学ぶことができます。
以上は,これまで出版された捜索理論(探索理論)関係の本とは異なる本書の特徴でもあります。

【著者からのメッセージ】
最後に,捜索理論を学ぼうとする方に,捜索理論は何の役に立つのかを伝えるべきでしょうが,捜索理論を学ぼうと考えた時点で,これを何に使おうかという腹案はお持ちかと思います。なぜなら,捜索理論そのものはORの分野でもマイナーであり,あえてこの分野を探し当てた方は,何かしらの特別な意図をお持ちかと思うからです。したがって,本書の「まえがき」や「はじめに」の章や目次に目を通していただき,捜索理論が役立つ具体的な問題の草案を練っていただきたく思います。
2019年初頭にあたって,捜索理論の主要テーマの領域外にも,日本が直面している災害対策や防衛問題,小さなテーマで言えば,無人航空機やドローンの効果的な活用などには,捜索理論に対する時代のニーズがあるようにも思えます。

捜索理論はオペレーションズ・リサーチ(ORと略す)の一つの研究分野である。ORは第二次世界大戦(1939~1945年)直前における英国によるレーダー開発とその運用の効率化の過程で生まれ,捜索理論は,大西洋を渡って米国に伝わったOR的手法から,米海軍がドイツのUボートの脅威阻止のための作戦研究を行う過程で誕生したものである。したがって,ORと捜索理論はいわば親子の関係にあって,大きな目的も当時は同じであったといってよい。

このような経緯で誕生した捜索理論であるが,大戦が終わり平和な時代となって以降は,主として捜索・救難活動の理論的主柱を与えるための展開を見せることになる。モース・キンボールの著書『ORの方法』(Methods of Operations Research,1951年)が,その後のOR研究とOR応用,さらには大学教育への浸透の契機になったように,捜索理論にもクープマンの著書『捜索と直衛の理論』(Search and Screening,1946年)があった。ちなみに,「直衛」とは船団護衛のことであり,「Screening」とは船団護衛における潜水艦に対抗するための哨戒線を意味する。しかし,ORがその後続々と開発された個別の技法・手法を包含するようになり,ORを解説するテキストが多くの研究者,教育者によって書かれたのに比べ,捜索理論をフォローする活動はそれほど拡大しなかった。その現実的なニーズが,海上軍事作戦や捜索・救助活動に限定されていたためである。創生期に書かれた『捜索と直衛の理論』から,米国OR学会のランチェスター賞を受賞したストーンの『最適捜索の理論』(Theory of Optimal Search,1969年),さらにはウォッシュバーンの『捜索と探知』(Search and Detection,1981年)と,捜索理論のテキストと呼ぶべき著書が適宜公刊された。ストーンの本はそのタイトル通り,目標探知のための最適な捜索資源配分の理論を主として扱っており,ウォッシュバーンの著書は著者が興味をもったいくつかの捜索問題を取り上げているだけであって,体系的に捜索理論を述べた本ではない。したがって,『捜索と直衛の理論』が捜索理論に関する唯一の体系的な本であり続けていた。一方の日本では,むしろ捜索理論の紹介という形で本が書かれ,多田和夫氏が『探索理論』(1973年)を入門書として,さらには飯田耕司,宝崎隆祐が捜索理論全般の解説書として『捜索理論-捜索オペレーションの数理』を著した。

このように,国内外ともに捜索理論の研究・教育が細々と続いていた状況にあっては,それ以上の教育書は必要ないと著者は考えていた。ところが,2011年3月11日の東日本大震災における主として津波被害による約5千人におよぶ行方不明者の捜索には,従来の捜索・救難活動では経験のない困難性があった。それから5年ほどが経過した2016年9月頃に広島大学の土肥正先生から,捜索理論特有の確率モデルを紹介する本を執筆しないかとお誘いいただいた。そのとき,上述した飯田先生との共著本も三訂を重ねていたが,10年が経っており,また内容が大学院向けであったこともあり,基礎的な理論の章を設けて,学部生から大学院生までの幅広い層が1冊の本で捜索理論を習得できるテキストがあってもよいのではと思い,執筆依頼をお受けした。そのような基礎的な章が,2章「確率論」,7章「最適化理論」と10章「ゲーム理論」である。その他の章の多くの内容は,前著の延長上にあるが,著者が防衛大学校の大学院で教えている「捜索理論」の講義ノートによる筋書きを念頭に置いた。

本書を執筆するにあたり,土肥先生をはじめ,コロナ社に厚くお礼申し上げる。また,著者が捜索理論という独特の研究テーマをいただき,ORの研究分野に足を踏み入れる機会を与えていただいた元防衛大学校教授岸尚先生や本書の共同執筆者でもある元防衛大学校教授飯田耕司先生と,その後ORの教育者,研究者として独り立ちできるまでに著者を成長させていただいた元神戸大学教授藤井進先生,関西学院大学教授三道弘明先生に大きな感謝を申し上げたい。

2019年1月 宝崎隆祐(著者代表)

1. はじめに

2. 確率論
2.1 集合と事象
 2.1.1 集合
 2.1.2 写像
 2.1.3 事象と確率
2.2 条件付き確率
 2.2.1 条件付き確率とは
 2.2.2 ベイズの定理
2.3 確率変数
 2.3.1 離散確率変数と連続確率変数
 2.3.2 離散確率変数と連続確率変数の例
 2.3.3 確率変数に関する特性値・期待値・分散
2.4 二次元平面上の確率計算
章末問題

3. 目標存在分布の推定
3.1 方位線情報による目標分布推定
 3.1.1 多角形による推定
 3.1.2 最尤推定による推定
3.2 定針・定速の拡散目標の分布推定
 3.2.1 デイタム位置が確実な場合の目標分布
 3.2.2 デイタム位置が不確実な場合の目標分布
3.3 ランダムウォーク移動目標の分布推定
3.4 スコーピオン号事件と捜索救難の発展
3.5 捜索実施結果を加味した目標存在の事後推定
 3.5.1 目標存在分布の更新
 3.5.2 重み付けシナリオ法による目標分布の推定
章末問題

4. 捜索センサーの探知論
4.1 捜索センサーの瞬間的な探知能力
4.2 目標移動におけるセンサーの探知能力
 4.2.1 探知ポテンシャル
 4.2.2 横距離探知確率と有効捜索幅
4.3 ビークルの捜索能力
章末問題

5. 静止目標に対する捜索モデルとその評価
5.1 区域捜索のモデル
 5.1.1 平行捜索
 5.1.2 ランダム捜索
 5.1.3 区域捜索法の比較
5.2 デイタム捜索のモデル
 5.2.1 規則的なデイタム捜索
 5.2.2 ランダム・デイタム捜索
 5.2.3 デイタム捜索法の比較
章末問題

6. 移動目標に対する捜索モデルとその評価
6.1 区域捜索と動的増分係数
6.2 移動目標と捜索者の会的
 6.2.1 近接可能領域
 6.2.2 探知方位の分布
6.3 デイタム捜索
 6.3.1 定針・定速目標に対するデイタム捜索
 6.3.2 ランダムウォーク目標に対するデイタム捜索
6.4 バリヤー哨戒
 6.4.1 8の字哨戒
 6.4.2 往復哨戒
 6.4.3 8の字哨戒と往復哨戒の比較
章末問題

7. 最適化理論
7.1 線形計画法
 7.1.1 線形計画問題による定式化
 7.1.2 双対理論
7.2 非線形計画法
 7.2.1 制約条件のない最適化問題
 7.2.2 等式制約をもつ最適化問題とラグランジュの未定乗数法
 7.2.3 不等式制約をもつ最適化問題とKarush-Kuhn-Tucker条件
7.3 動的計画法
 7.3.1 最適性の原理
 7.3.2 動的計画法による定式化とさまざまな最適政策
7.4 変分法
 7.4.1 オイラー方程式
 7.4.2 オイラー・ラグランジュ方程式の拡張
章末問題

8. 静止目標に対する最適資源配分
8.1 クープマン問題
8.2 その他の評価尺度の最適捜索
 8.2.1 生存探知確率
 8.2.2 期待利得
章末問題

9. 移動目標に対する最適資源配分
9.1 探知確率最大化問題
 9.1.1 マルコフ移動目標に対する最適資源配分
 9.1.2 パス型移動目標に対する最適資源配分
9.2 期待利得最大化問題
9.3 捜索経路の制約付き捜索問題

10. ゲーム理論
10.1 問題のゲームによる表現
10.2 2人ゼロ和ゲームと均衡解
 10.2.1 鞍点
 10.2.2 支配戦略
 10.2.3 連続ゲーム
 10.2.4 混合戦略と均衡解
 10.2.5 ミニマックス定理と最適混合戦略の求め方
10.3 非ゼロ和ゲームとナッシュ均衡解
10.4 展開形ゲーム表現と多段ゲーム
 10.4.1 展開形ゲームの定義
 10.4.2 展開形ゲームにおける戦略と行動戦略
 10.4.3 確率ゲーム
10.5 情報不完備ゲームとベイジアンゲーム
章末問題

11. 捜索ゲーム
11.1 静止目標に関する捜索ゲーム
11.2 移動目標に関する捜索ゲーム
 11.2.1 目標のパス型移動を用いた均衡解
 11.2.2 目標のマルコフ移動を用いた均衡解
11.3 捜索ゲームに関するその他のモデル
 11.3.1 虚探知の発生する捜索
 11.3.2 多段階の捜索ゲーム
 11.3.3 目標の初期位置が個人情報である情報不完備捜索ゲーム
章末問題

参考文献
索引

読者モニターレビュー【Y.N.様(大学生)】

『シリーズ情報科学における確率モデル』の第3巻にあたる本書では,オペレーションズ・リサーチの研究分野の1つである「捜索理論」について解説されています。確率・統計の基礎から,実際にオペレーションズ・リサーチが活用された歴史的な出来事も紹介しながら,一見初心者には難しい内容でもとてもわかりやすく書かれていました。数式と文章の比率がちょうど良く,テンポよく読み進められます。オペレーションズ・リサーチの捜索理論の入門としてはもちろん,数学が現実にある問題を解決するためにどのように役立つのか知ることができる非常に興味深い内容でした。

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