思考力を磨く信号処理基礎の仕組み

思考力を磨く信号処理基礎の仕組み

  • 陶 良 千葉工大教授 工博

信号処理の中核となるフーリエ変換について,固有・直交基底の観点から導き出すように説明

ジャンル
発行年月日
2024/04/22
判型
A5
ページ数
222ページ
ISBN
978-4-339-00990-3
思考力を磨く信号処理基礎の仕組み
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定価

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本書では,信号処理の既存スキルの習得よりも「どうして」を「どのように」に結びつけ,今後の発展や周辺学問分野への展開を重視した。信号処理の中核となるフーリエ変換について,固有・直交基底の観点から導き出すように説明した。

物理学の学問分野は具体的な対象によって,熱力学,力学,音響と振動,電磁気学,光,量子力学などに分かれるが,ほとんどの原理規則は微分方程式によって記述されている。特に線形微分方程式が適用できる場合,逆問題は基本解との畳み込み積分によって解かれる。ここでの基本解は,時間領域ではインパルス応答,空間領域ではグリーン関数として知られている。

信号処理の出発点では,線形微分方程式を線形システムの操作として捉え,さらにシステムの固有関数を基底関数とする考え方を導入する。これにより,微分方程式を代数方程式に変換でき,諸特性をより深く理解し,効果的に利用できる。また,固有関数と基底関数の概念は,応用数学から派生し,計測,制御,通信,情報処理などの技術分野の基盤として重要な役割を果たしている。信号処理は,数・理・工学の幅広い分野領域の架け橋の1つであると言える。したがって,信号処理への探求は,定理・証明や問題・計算の繰返しを超え,諸概念の物理的意義を理解する洞察力を高めることが望まれる。

本書は,「どうして」を「どのように」に結びつけ,信号処理の既存スキルの習得よりも,今後の発展や周辺学問分野への展開に対する考え方を重視した。例えば,信号処理の中核となるフーリエ変換について,固有・直交基底の観点から導き出すように説明した。また,各要所において,概念や数式の物理的意味を多面的に解読し,信号処理の分野にて省略しがちの物理単位についても考察した。このような考えのもとに,本書を以下の要旨で構成した。

まず,第1章と第2章では,信号とシステムの基本概念と特性を解説する。学生諸君がこれまで数の計算を中心とし,関数の計算になじんでいないことを考慮した。具体的には,関数の横軸変形,奇偶分解,畳み込み積分などの演算,信号処理の要素関数であるδ関数と正弦波の振る舞い,線形時不変システムの基本特性などについて,数式のみならず図形的な見方も用いてかみくだいて解説した。ここからの信号処理への探求の旅をスムーズに楽しむために,パズルゲームの感覚で必要な基礎概念を身につけてほしい。

第3章では,システムの固有関数と信号の基底関数,ならびに関数の内積,直交とノルムの概念を解説する。これらの概念は信号処理の本質を理解するための出発点であり,イメージしやすい2次元ベクトルを切り口としてグラフ例を用いて説明した。なお,直交基底関数に基づいた関数の分解は,データ圧縮,成分解析,パターン認識,機械学習など,信号処理と隣接するデータサイエンス分野の基盤にもなっているため,その領域の入り口である最小二乗法も紹介した。これらの概念に基づき,最後にフーリエ級数展開の基底関数を導いた。

第4~6章では,フーリエ級数展開,フーリエ変換,離散時間フーリエ変換,離散フーリエ変換の順に,信号処理入門の中核である各種フーリエ変換の概念,特性を解説する。特に,これらの相互関係の説明に留意した。応用例としては,原則それぞれの基本概念の理解に関係の強いものに絞った。

第7章は,時間と周波数の両方の情報を取り入れた展開として,ウェーブレット変換,ラプラス変換,z変換を紹介する。これらは,データ解析,制御工学やデジタルフィルタなど,一見異なる応用先の基礎となっている。ここでは,仕組み重視の主旨から,どのように計算するかやどこに使うかよりも,フーリエ変換の制限に着眼し,諸概念を解剖して,それぞれの意義の洞察を優先した。

本書は,信号処理の入門教材として,理工系大学2,3年次の学生を対象と想定している。複素数,微分積分,線形代数など大学基礎数学の知識があれば内容を理解できる。信号処理の基礎知識の習得のみならず,他の数理関連分野とのつながりに対する思考の啓発によって,学問の楽しさを味わい,初学者以外も新しい見方がひらめくことを期待したい。本書の至らない点については,ご意見とご指摘をいただければ幸いである。

本書の執筆と出版にお世話になったコロナ社の方々に感謝を申し上げる。

2024年2月
著者

1. 信号の表現と基本特性
1.1 信号の表現
 1.1.1 一般関数表現
 1.1.2 区分関数と継続区間
 1.1.3 離散分布信号
 1.1.4 ベクトル表記
1.2 信号の横軸変形
1.3 信号の基本演算
 1.3.1 基本2項演算
 1.3.2 線形結合
 1.3.3 微分
 1.3.4 積分
1.4 信号の対称性と周期性
 1.4.1 偶関数と奇関数
 1.4.2 周期信号の特性
1.5 特殊関数
 1.5.1 単位ステップ関数
 1.5.2 単位パルス関数
 1.5.3 δ関数
 1.5.4 インパルス列
 1.5.5 離散時間δ関数
1.6 正弦波
 1.6.1 基本特性
 1.6.2 複素正弦波
章末問題

2. システムの概念と基本特性
2.1 システムの表現
2.2 システムの時不変性と線形性
 2.2.1 時不変性
 2.2.2 線形性
2.3 線形時不変システム
 2.3.1 基本概念
 2.3.2 インパルス応答関数
 2.3.3 畳み込み積分
 2.3.4 線形時不変作用素の特性
 2.3.5 離散時間信号の畳み込み和
2.4 その他のシステム特性
章末問題

3. 線形時不変システムの固有関数と直交基底関数
3.1 固有ベクトルと基底ベクトル
 3.1.1 行列の固有ベクトル
 3.1.2 基底ベクトルの一般概念
 3.1.3 ベクトルの内積とノルム
 3.1.4 直交基底ベクトル
 3.1.5 最小二乗法
3.2 固有関数と基底関数
 3.2.1 線形時不変システムの固有関数
 3.2.2 信号の基底関数
 3.2.3 直交基底関数
 3.2.4 線形時不変システムの直交固有関数
章末問題

4. フーリエ級数展開
4.1 フーリエ級数の基本概念
 4.1.1 複素正弦波表現
 4.1.2 実数正弦波表現
4.2 フーリエ係数の物理的意味
 4.2.1 周波数スペクトル
 4.2.2 位相の物理的意味と折り返し
4.3 特殊関数のフーリエ級数展開
 4.3.1 インパルス列
 4.3.2 実数正弦波
 4.3.3 周期矩形パルス
4.4 フーリエ級数展開の特性
 4.4.1 線形性
 4.4.2 共役対称性
 4.4.3 時間変形と時間微分
 4.4.4 パーセバルの等式
4.5 フーリエ級数展開の収束性
 4.5.1 ディリクレ収束条件
 4.5.2 ディリクレ核
 4.5.3 ギブス現象
章末問題

5. 連続フーリエ変換
5.1 連続フーリエ変換の基本概念
 5.1.1 フーリエ級数展開の拡張
 5.1.2 フーリエ変換と逆変換
 5.1.3 フーリエ変換の広義収束
5.2 フーリエ変換の特性
 5.2.1 線形性と共役対称性
 5.2.2 微分積分
 5.2.3 横軸変形
 5.2.4 双対性
 5.2.5 パーセバルの定理
5.3 特殊関数のフーリエ変換
 5.3.1 δ関数と定数関数
 5.3.2 正弦波
 5.3.3 インパルス列
 5.3.4 周期信号
 5.3.5 矩形パルス関数とsinc関数
5.4 フーリエ変換の基礎的な応用
 5.4.1 畳み込み積分
 5.4.2 窓関数とスペクトル漏洩
 5.4.3 線形時不変システムの周波数応答
 5.4.4 低域通過フィルタ
 5.4.5 相関関数
 5.4.6 変調復調
章末問題

6. 離散時間信号のフーリエ変換
6.1 離散時間フーリエ変換
 6.1.1 基本概念
 6.1.2 スペクトルの巡回シフト
 6.1.3 サンプリング定理
6.2 離散フーリエ変換
 6.2.1 基本概念
 6.2.2 変換行列と基底ベクトル
 6.2.3 時間インデックスと周波数ビン
 6.2.4 信号とスペクトルの補間
章末問題

7. 非定常信号処理への拡張
7.1 信号の時間周波数解析
7.2 線形時不変システムの非定常応答解析
 7.2.1 ラプラス変換の基本概念
 7.2.2 ラプラス変換の特性
 7.2.3 ラプラス変換によるシステム解析
7.3 離散時間システムの解析
 7.3.1 デジタルフィルタの基本構成
 7.3.2 z変換
 7.3.3 デジタルフィルタの設計
章末問題

章末問題略解
索引

読者モニターレビュー【 JAZZCAT 様(業界・専門分野:鉄鋼機械エンジニアリング)】

レビュアーは、陶良氏による著書「思考力を磨く信号処理基礎の仕組み」をレビュー致しました。その結果を箇条書きにて、下記致します。

① 本書の一貫したスタイルとなっている「原理的な説明」もしくは「読者が疑問に思う点」をまず提示し、その後、その「理由の説明」や「具体的な例題」を通じて、解説がされており、非常に理解が深まる構成になっていると感じました。
類書では、天下り的な導入から始まり、そこから例題などの演習が中心となっているものが多いようにレビュアーは感じておりました。そのため、「なぜそうなるのか(そう考えるのか)」が理解できないままで、終わってしまうことが多いように思います。
この点は、本書のまえがきに書かれている「「どうして」を「どのように」に結びつけ」という一文からも、上記の良さが分かるものと思います。

② 全章を通じて、説明は(良い意味で)くどいほど丁寧で、理解も早くなるものと思いました(式の誘導も丁寧です)。
但し、数学的な考え方がきちんと身についていないと、読んでいても、チンプンカンプンとなってしまい、かなりしんどくなる点も指摘する必要がある(本書を読むにあたり、「相当な覚悟が必要」)と思いました。具体的には、以下の点を考慮したためです:
1) 本書のタイトルは、「信号処理基礎の仕組み」となっていますが、内容は信号処理を題材とした、「応用数学」の範疇に入るものと思いました。というのも、信号処理は、適用範囲が幅広く、機械系(レビュアーは、機械系出身のため)に限っただけでも、計測工学や制御工学、研究でのデータ処理、実験、開発といったものが思いつきます。

2) 上述の通り、「適用範囲が幅広い」のであれば、そこには「汎用性の高さ」が存在します。汎用性が高いものを理解するためには、「数学もしくは物理」という道具を利用した、抽象的な概念を導入する必要があります。

3) 抽象的な概念の理解で注意しないといけない点は、概念を読んだだけでは、分かったつもりになってしまう、ということです。レビュアーも経験がありますが、その概念を具体的な問題に適用しようとすると、なぜだかうまくできない(問題が解けない、という意味)のです。
それは、抽象的な概念を「具体的な意味合いまで落とし込み、理解をする」というプロセスが抜けているためだということが、経験を積んでいくうちに、分かってきました。
本書では、適切な例題が、適切な位置に配置され、分かりやすい解説がされているので、時間の許す限り、演習を行い、自分のものにするほうが良いと感じました。

4) 本書のまえがきには、「複素数、微分積分、線形代数など大学基礎数学の知識があれば」と書かれていますが、特に、線形代数では、線形空間という抽象的な空間論を自由自在に使いこなせる力をかなり要求されるように思いました(当然、本書内でも丁寧な説明はされておりますが)。
そのため、上記3分野の一通りの基本事項と例題演習ができている、という前提が必須かと感じました(本書のまえがきに「理工系大学2、3年次の学生を対象と想定」と書かれてはいますが、上記の点を考えると、そこまで深く理解できている学生は、そう多くはないものと思われます)。

③ 最後に、いくつかコメント致します。
1) 本書の利用について、1章は初等的な関数の概念の記述となっているので、読者諸氏で不明な部分や初学の部分のみ、読めば良いのではないか、と感じました。また、後章に進むうちに不明点があれば、1章に立ち返り、読み直し、理解すれば良いものと思いました。

2) レビュアーは、本書のコアになる部分は、2章から5章にあると考えています。線形時不変システムを通して、固有空間の概念を導入し、そこからフーリエ級数やフーリエ変換という概念を導いていく、類書にはない特長を有していると思いました。ここは、時間をかけて、じっくり丁寧に読んでいくのが良いものと思いました。

3) 本書を読むにあたり、1度でも信号処理(もしくは、フーリエ変換やラプラス変換、制御工学でも良いと思います)に関する概略を頭に入れておくと、理解がより早く、そして深くなるものと思いました。

4) 制御関係に携わっている諸氏には、釈迦に説法かと思いますが、7.2に記載されているラプラス変換については、既存の書籍ではあまり詳しく書かれていない事項が記載されているので、ラプラス変換を原理的な視点(応用数学からの視点)から理解し直すのに、もってこいの教材かと感じました。

以上、簡単ではありますが、本書をレビューした結果を記載致しました。本書をご購入予定の方々のご参考になれば、非常に幸いです。

読者モニターレビュー【 はると 様(業界・専門分野:情報・電気電子)】

本書は信号処理について学べる本である。1章と2章では信号とシステムの概念について説明されている。数学について深く学ばない学科であっても、各々の基礎が理解できるように例題や図を用いて詳しく説明されている。3章では、線形時不変システムの固有関数と直交基底関数について説明されており、これまでの章の内容と4章以降の内容の懸け橋となる重要な章である。固有値の説明からされているため、線形代数学に苦手意識を持っている人でも安心して読み進めることができる。また、人工知能やデータ圧縮で重要な役割を果たす最小二乗法についても紹介されているため、是非とも理解して欲しい。4章ではフーリエ級数展開について説明されており、本書では多くの初学者が苦手とするフーリエ係数の物理的意味について節が設けられており非常にわかりやすく解説されている。5章は連続フーリエ変換について説明されており、フーリエ変換の基礎だけでなくその実用例のローパスフィルタや通信分野で用いられる変調復調などついても書かれており、読み手の視野が広がるようになっている。6章は離散フーリエ変換について、他の離散時間フーリエ変換が書かれた本に比べ、簡潔にわかりやすく書かれている。また、離散ならではのサンプリング定理にもしっかり言及されている点が良いと思った。7章では、ウェーブレット変換やラプラス変換、z変換について説明されており、様々な分野の基礎となる内容を学べるが、これらの内容は非常に難しいため例題や図がもう少し欲しいと感じた。
総じて、信号処理の初学者やそれがどのように応用されているのか知りたい人におすすめである。本書をご購入予定の方々のご参考になれば、とても幸いである。

掲載日:2024/04/01

電子情報通信学会誌2024年4月号

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