株式会社コロナ社
確率モデル

『シリーズ 情報科学における確率モデル』書籍案内

2019.6.24更新

本シリーズは全13巻の発行が予定されています。
発行にあわせ,書籍選びの参考となるような情報を掲載していきます!

シリーズ刊行のことば

われわれを取り巻く環境は,多くの場合,確定的というよりもむしろ不確実性にさらされており,自然科学,人文・社会科学,工学のあらゆる領域において不確実な現象を定量的に取り扱う必然性が生じる。「確率モデル」とは不確実な現象を数理的に記述する手段であり,古くから多くの領域において独自のモデルが考案されてきた経緯がある。情報化社会の成熟期である現在,幅広い裾野をもつ情報科学における多様な分野においてさえも,不確実性下での現象を数理的に記述し,データに基づいた定量的分析を行う必要性が増している。

一言で「確率モデル」といっても,その本質的な意味や粒度は各個別領域ごとに異なっている。統計物理学や数理生物学で現れる確率モデルでは,物理的な現象や実験的観測結果を数理的に記述する過程において不確実性を考慮し,さまざまな現象を説明するための描写をより精緻化することを目指している。一方,統計学やデータサイエンスの文脈で出現する確率モデルは,データ分析技術における数理的な仮定や確率分布関数そのものを表すことが多い。社会科学や工学の領域では,あらかじめモデルの抽象度を規定したうえで,人工物としてのシステムやそれによって派生する複雑な現象をモデルによって表現し,モデルの制御や評価を通じて現実に役立つ知見を導くことが目的となる。

昨今注目を集めている,ビッグデータ解析や人工知能開発の核となる機械学習の分野においても,確率モデルの重要性は十分に認識されていることは周知の通りである。一見して,機械学習技術は,深層学習,強化学習,サポートベクターマシンといったアルゴリズムの違いに基づいた縦串の分類と,自然言語処理,音声・画像認識,ロボット制御などの応用領域の違いによる横串の分類によって特徴づけられる。しかしながら,現実の問題を「モデリング」するためには経験とセンスが必要であるため,既存の手法やアルゴリズムをそのまま適用するだけでは不十分であることが多い。

本シリーズでは,情報科学分野で必要とされる確率・統計技法に焦点を当て,個別分野ごとに発展してきた確率モデルに関する理論的成果をオムニバス形式で俯瞰することを目指す。各分野固有の理論的な背景を深く理解しながらも,理論展開の主役はあくまでモデリングとアルゴリズムであり,確率論,統計学,最適化理論,学習理論がコア技術に相当する。このように「確率モデル」にスポットライトを当てながら,情報科学の広範な領域を深く概観するシリーズは多く見当たらず,データサイエンス,情報工学,オペレーションズ・リサーチなどの各領域に点在していた成果をモデリングの観点からあらためて整理した内容となっている。

本シリーズを構成する各書目は,おのおのの分野の第一線で活躍する研究者に執筆をお願いしており,初学者を対象とした教科書というよりも,各分野の体系を網羅的に著した専門書の色彩が強い。よって,基本的な数理的技法をマスターしたうえで,各分野における研究の最先端に上り詰めようとする意欲のある研究者や大学院生を読者として想定している。本シリーズの中に,読者の皆さんのアイデアやイマジネーションを掻き立てるような座右の書が含まれていたならば,編者にとっては存外の喜びである。

2018年11月 編集委員長 土肥 正 

シリーズラインナップ(本サイト目次)
  1. 統計的パターン認識と判別分析
  2. 栗田多喜夫・日高章理 共著 発売中!!
  3. ボルツマンマシン
  4. 恐神貴行 著 発売中!!
  5. 捜索理論における確率モデル
  6. 宝崎隆祐・飯田耕司 共著 発売中!!
  7. マルコフ決定過程-理論とアルゴリズム-
  8. 中出康一 著 発売中!!
  9. エントロピーの幾何学
  10. 田中 勝 著 発売中!!
  11. 確率システムにおける制御理論
  12. 向谷博明 著 発売中!!
以下続刊
  • システム信頼性の数理
  • 大鑄史男 著
  • マルコフ連鎖と計算アルゴリズム
  • 岡村寛之 著
  • 確率モデルによる性能評価
  • 笠原正治 著
  • ソフトウェア信頼性のための統計モデリング
  • 土肥 正・岡村寛之 共著
  • ファジィ確率モデル
  • 片桐英樹 著
  • 高次元データの科学
  • 酒井智弥 著
  • リーマン後の金融工学
  • 木島正明 著


第1巻 統計的パターン認識と判別分析

読者対象

機械学習,パターン認識,ニューラルネットなどに興味を持っている学生,研究者

キーワード

パターン認識,機械学習,線形判別分析,カーネル判別分析,最適非線形判別分析,判別カーネル,線形回帰,ロジスティック回帰,カーネル回帰,最適非線形回帰,ベイズ決定理論,事後確率,変分法,サポートベクトルマシン,主成分分析,カーネル法,周辺化カーネル

書籍の特徴

本書は,パターン認識において用いられる線形回帰や線形判別分析といった手法について,「各手法が本質的になにを実現しようとしているのか」という点を理解するうえで一つの答えを示しています。パターン認識をこれから新たに学びたいと考えている読者はもちろん,各種法をもう少し統一的に理解がしたいと思っている読者にとっても気づきが得られる内容です。

本質的な理解のアプローチとして,機械学習の最も基本的なタスクである回帰と識別について最適な非線形関数がなにかを知り,パターン認識で使われる各種法がその最適な非線形関数をどのように近似しているのかを理解できるような構成となっています。この点はほかの書籍にはみられないアプローチです。

パターン認識をこれから新たに学びたいと考えている読者はもちろん,各種法をもう少し統一的に理解がしたいと思っている読者にとっても気づきが得られるはずです。

各章について

各章での説明の流れを簡単に説明します。

はじめの1,2章でベイズ識別の仮定と同様に,訓練サンプルが無限にあり,データの背後の確率的な関係が完全にわかっている場合について,変分法を用いて予測や識別のための最適な非線形関数を導出します。これにより,訓練用のデータ(訓練データ)から学習したモデルが究極的になにを学習しているかを理解します。

(ベイズ識別の理論では,対象の観測値とクラスとの確率的な関係が完全にわかっているという仮定のもとで,識別誤りを最小とする最適な方式が事後確率が最大のクラスの識別方式となることが知られています。)

しかし,実際の応用データでは,データの背後の確率的構造がわかっていることはまれで,それらを訓練データから推定する必要があります。訓練データから確率分布を推定することができれば,推定結果を利用して予測のための最適な非線形関数を近似するモデルを求めることができます。この点について3章で解説しています。

つづく4章では,確率分布の推定を経由せずに,訓練データから直接,入力ベクトルから目的変数の値を推定する関数を構成する手法(線形回帰分析)を解説。さらに5章で,同様にして訓練データから直接,入力ベクトルからクラスを推定する線形識別関数を求める手法として

  • 2クラス識別のための線形モデル:単純パーセプトロン,ADALINE,ロジスティック回帰,サポートベクトルマシン
  • 多クラス識別のための線形モデル:最小二乗線形識別関数,多項ロジスティック回帰
  • 線形識別関数の学習のためのモデルを層状に結合した,多層パーセプトロン
  • を解説します。

    6章では,主成分分析と線形判別分析について,それぞれ手法の特徴と訓練データとの関係に触れたうえで解説を行い,本質的な理解を目指します。

    7章では, 特徴ベクトルを非線形に変換することで,その空間で線形モデルを用いて予測や識別を行う手法であるカーネル法について解説します。この方法を用いることでサポートベクトルマシンの認識性能が飛躍的に向上しましたが,本書籍で扱ったほかの多くの線形手法を非線形に拡張する場合にも利用できます。本章ではカーネル回帰,カーネルサポートベクトルマシン,カーネル主成分分析,カーネル判別分析を詳しく採り上げます。

    最後の8章では,訓練サンプルが無限にあり,データの背後の確率的な関係がわかっていると仮定して,判別基準を最大とする最適な非線形判別関数を用いて導出する(大津展之先生による手法)。さらに,導出した最適な非線形判別写像と線形判別分析との関係について議論し,カーネル法を別の視点から眺めてみることで,導出した最適な非線形判別分析写像から最適なカーネル関数の導出を行います(判別カーネル)。

    著者からのメッセージ

    パターン認識・機械学習分野の中で「回帰」と「識別」を中心に取り扱う本ですが,従来の類書では詳しく書かれていないであろう式展開なども多く盛り込んでいます。
    特に「変分法」や「ベイズ事後確率の線形近似」という道具立てで回帰分析と判別分析の知られざる素性や性質を詳らかにしている部分などをお楽しみ頂ければと思います。

    統計的パターン認識と判別分析 [統計的パターン認識と判別分析] 栗田多喜夫(広島大教授)
    日高章理(東京電機大准教授) 著

    第2巻 ボルツマンマシン

    読者対象

    学部生が読めるレベルを心がけています。ボルツマンマシンを通じて機械学習・強化学習に必要な基礎的な知識が身に着けられます。一方で,網羅的ではありませんが,ボルツマンマシンに関する幅広い話題を取り上げているので,ボルツマンマシンや関連分野の研究者が読んでも新たな気付きが得られることを期待しています。

    キーワード

    ボルツマンマシン,制限ボルツマンマシン,動的ボルツマンマシン,ニューラルネットワーク,深層ネットワーク,深層学習,機械学習,強化学習,表現学習,深層強化学習,コントラスティブダイバージェンス,確率的勾配法,自由エネルギー,生成モデル,時系列,Q学習,SARSA

    書籍の特徴

    ボルツマンマシンという一つの確率モデルに限定して、機械学習・強化学習への幅広い適用方法について説明しています。ボルツマンマシン以外のモデルを機械学習・強化学習に用いる際にも有用な、確率的勾配法や強化学習の基礎について特に丁寧に説明しています。

    各章について

    各章での説明の流れを簡単に説明します。

    1章では,「ボルツマンマシンとはなにか」,「学習するとはどういうことか」,「学習によってなにができるようになるのか」をテーマとして解説を行います。また,ボルツマンマシンは,「勾配法」や「確率的勾配法」を適用して学習することが多いので,これらの基礎についての確認も行います。

    2章では,ボルツマンマシンを勾配法で学習する際に必要となる勾配や,勾配法に有用な情報を与えるヘッセ行列を具体的に導出します。なお,ボルツマンマシンの学習は一般には計算量的に困難であるため,何かしらの近似をするか,ボルツマンマシンの構造を限定する必要があります。この計算困難さを克服する「制限ボルツマンマシン」について,本章で解説します。

    3章では,ボルツマンマシンが定める確率分布の期待値を近似的に評価します。ボルツマンマシンは確率分布を定めますが,この確率分布に関する期待値の評価が学習に必要となります。ただし,一般にはこの期待値を閉形式で書くことはできず,期待値を厳密に評価するのは計算量的に困難であるため,ここでは近似的に評価を行います。また,制限ボルツマンマシンが持つ構造を利用すると,近似に必要な計算を効率的に行えるようになることについても確認します。

    ボルツマンマシンと関連する代表的な深層ニューラルネットワークに「深層信念ネットワーク」と「深層ボルツマンマシン」があり,これらのニューラルネットワークは多数の層からなります。4章では,これらについて,制限ボルツマンマシンを用いて層ごとに学習していく手法を解説します。これは深層学習が注目されるきっかけとなった手法です。

    5章ではボルツマンマシンを用いた時系列モデルの解説を行います。ボルツマンマシンの構造を工夫すると,複数のパターンが時間の順番に並んだ時系列データを学習して,将来の値の予測などに使えるようになります。

    時系列データは順番に観測されていきますが,データが生成される環境が時間とともに変化する場合には,その変化に合わせて時系列モデルを更新していく必要があります。6章では,各時点で観測されるパターンに基づいて,モデルのパラメータを逐次的に更新するオンライン学習について解説します。このオンライン学習を効率的に行うのが「動的ボルツマンマシン」です。

    7章ではボルツマンマシンがどのように強化学習に使えるのかを解説します。強化学習では候補となる行動の数が多いと効率的な使用が難しくなりますが,ボルツマンマシンを用いることでこの難しさが解消されます。強化学習の基礎となるマルコフ決定過程から説明を始め,ボルツマシンを強化学習に適用していきます。強化学習の基礎的な内容も学べます。

    著者からのメッセージ

    できるだけ直感的な理解が得られるように説明を工夫しました。これまで分からなかったことが「分かった」「なるほど」と思っていただける箇所があれば幸いです。

    ボルツマンマシン [ボルツマンマシン] 恐神貴行(IBM東京基礎研究所) 著

    第3巻 捜索理論における確率モデル

    読者対象

    本格的に捜索理論(または探索理論)を学びたいと思っている学生や研究者はもとより,「私達の身の回りに見出だせる問題を数理的に分析したい」と考えている読者も対象としています。これは,捜索理論がそのような分析手法の体系をもつオペレーションズ・リサーチ(OR)の一分野として発展したものであるため,実世界における意思決定問題への理論の具体的な適用手順を習得できるからです。

    キーワード

    オペレーションズ・リサーチ,センサー,探知,哨戒,監視,捜索救難,レーダー,音響センサー,ソノブイ,数理計画法,最適化理論,線形計画法,非線形計画法,動的計画法,変分法,確率論,ゲーム理論,探知確率,存在分布,ランダムウォーク,ソリューション,デイタム捜索,区域捜索,バリヤー哨戒

    書籍の特徴

    7章と10章では,数理的分析には欠かせない一般理論である「最適化理論」(線形計画法,非線形計画法,動的計画法及び変分法)と「ゲーム理論」の重要な定理や理論について,役立つことや応用を第一義として書いています。そのため,これらの理論に興味のある学生が,捜索理論に関連するその他の章をスルーして,7章と10章だけを読んでいただいても,理論の核となる部分を端的に学ぶことができます。

    私達を取り巻く実世界には様々な意思決定場面があり,その問題を解くためには,まずはそれを記述・定義して,自分の目前に明示するところから始めなければいけません。それができれば,後は上記のような一般理論の大海の中でこれまで開発され蓄積されてきた解法が利用できるかもしれません。このような問題の記述・定義の作法についても,本書により学ぶことができます。

    以上は,これまで出版された捜索理論(探索理論)関係の本とは異なる本書の特徴でもあります。

    各章について

    準備中

    著者からのメッセージ

    最後に,捜索理論を学ぼうとする方に,捜索理論は何の役に立つのかを伝えるべきでしょうが,捜索理論を学ぼうと考えた時点で,これを何に使おうかという腹案はお持ちかと思います。なぜなら,捜索理論そのものはORの分野でもマイナーであり,あえてこの分野を探し当てた方は,何かしらの特別な意図をお持ちかと思うからです。したがって,本書の「まえがき」や「はじめに」の章や目次に目を通していただき,捜索理論が役立つ具体的な問題の草案を練っていただきたく思います。

    2019年初頭にあたって,捜索理論の主要テーマの領域外にも,日本が直面している災害対策や防衛問題,小さなテーマで言えば,無人航空機やドローンの効果的な活用などには,捜索理論に対する時代のニーズがあるようにも思えます。

    捜索理論における確率モデル [捜索理論における確率モデル] 宝崎隆祐(防衛大教授)
    飯田耕司(元防衛大教授) 著

    第4巻 マルコフ決定過程 -理論とアルゴリズム-

    読者対象

    マルコフ決定過程について基礎から学びたい学生・研究者を読者として想定しています。オペレーションズ・リサーチの研究に従事し,確率的な要素を含む動的最適化問題における最適決定政策を導出する方法に興味がある方,ならびに情報分野で強化学習について学ぶ際その基礎となるマルコフ決定過程について理解したい方などが対象となります。

    キーワード

    確率,確率過程,オペレーションズ・リサーチ,動的計画法,状態,決定,マルコフ連鎖,再生過程,マルコフ決定過程,クラス,最適化,部分観測可能,最適政策,平均利得,無限期間総割引期待利得,有限期間期待利得,セミマルコフ決定過程,近似最適化,強化学習,Q学習,SARSA

    書籍の特徴

    この本のみでマルコフ決定過程の理論を学べるように,基礎となる動的計画法,確率変数,確率過程について詳しく述べています。その上で,マルコフ決定過程の各種最適化規範について,基本的かつ重要な理論と,最適決定を求めるアルゴリズムについて詳細に示しました。近似アルゴリズムと強化学習に関連する事項については基本的な内容にとどめて記述しました。強化学習等を主題としてその中でマルコフ決定過程について触れている本はいくつか見られます。しかし,マルコフ決定過程の基礎理論を中心に日本語で書かれた本としては近年では他に類するものがないと考えています。

    各章について

    1章ではマルコフ決定過程の概要を,2章では基礎理論としてマルコフ連鎖を中心として確率過程について述べています。3章から5章では,有限期間期待利得問題,無限期間総割引期待利得問題,平均利得問題のそれぞれについて,最適政策導出に関する理論と,最適政策を求めるアルゴリズムについて詳細に述べています。6章では連続時間上のセミマルコフ決定過程について述べ,7章では部分観測可能マルコフ決定過程に関する基礎的な事項を示しています。8章では,より発展的な内容として,大規模問題における近似アルゴリズムの観点からの強化学習へのアプローチ,また最適性方程式から導かれる最適政策のもつ性質の理論的導出について触れています。

    著者からのメッセージ

    マルコフ決定過程の理論の中でも特に重要な点に絞って詳細に記述しました。古典的な内容ではありますが,お役に立つことが出来れば著者として望外の喜びです。

    マルコフ決定過程 [マルコフ決定過程] -理論とアルゴリズム- 中出康一(名工大教授) 著

    第5巻 エントロピーの幾何学

    読者対象

    測度論的確率論に興味はあるが専門家になる必要はない学部生・大学院生および研究者を対象としています。

    また,情報幾何学のこれまでとは異なる取扱いに興味のある大学院生・研究者も対象としています。

    キーワード

    測度論,確率論,アファイン空間,双対構造,エントロピー,レニー・エントロピー,ツァリス・エントロピー,加法性,非加法性,べき型分布,指数型分布族,非指数型分布族,一般化ピタゴラスの定理,情報幾何学,ダイバージェンス,ルジャンドル変換,ヘルダー共役,AdS/CFT対応,余次元,不定計量,q-正規分布,くり込み,階層構造

    書籍の特徴

    測度論的確率論では,Radon-Nikodymの定理をvon Neumannによる証明に沿って他書を参照すること無く理解できるように,敢えて冗長な記述を試みました。一般的な数学書とは違って,できるだけ行間を読まないで済むように書いたつもりです。

    また,通常の情報幾何学で登場するスコア関数に対する一次独立性の仮定を明確に式で書いておきました(67ページ)。さらに,確率変数による積分とパラメータ(自然座標)による微分が交換できる条件を定理の形で与えておきました(75-77ページ)。通常は,これらのことは正則条件という名の下に明示されないことが多いです。

    ところで,いわゆるTsallisエントロピーは,本来ならばHavrda-Charvatエントロピーと言うべきです(123ページ)。この点を指摘した本も少ないと思います。また,この非加法的エントロピーが優加法性と劣加法性のどちらでも満たすように調整できることもあまり知られていないようです。この本では,劣加法性の場合に注目して取り扱っていきますが,スケール変換に対応する座標をうまく追加することで加法性をもつエントロピーに変換できることが具体的に示されます。

    各章について

    準備中

    著者からのメッセージ

    最初の1章と2章を焦らずにじっくり納得しながら読んでもらえると,他の測度論的確率論に関する本を読むときにも,かなり敷居が下がると思います。

    この本の3章以降は,測度空間に特別な平行移動を導入することで,これまでの形式とは異なる情報幾何学(τ-情報幾何学)が作れるというところがポイントになります。そこでは,マトリョーシカのような確率分布の入れ子構造も登場します。さらには,Fisher計量を部分行列として含むような不定計量が得られるのも面白いところです。もし,Mostowの剛性定理がうまく拡張できてτ-情報幾何学に適用できるようになれば,ここで構成される双曲空間の剛性とFisher計量の一意性についても何か言えるようになるはずですが,どなたか興味のある方はチャレンジしてみませんか?

    エントロピーの幾何学 [エントロピーの幾何学] 田中 勝(福岡大教授) 著

    第6巻 確率システムにおける制御理論

    読者対象

    確率システムを基盤とした動的ゲーム問題,および関連する数値計算について,基礎から応用まで幅広く学びたい大学院生・研究者を読者の対象としています。また,システム理論を軸として,実際の現場で活躍されている開発者も含まれます。特に,確率制御を含む動的ゲーム理論を将来的に応用してみたい技術者も対象にしています。

    キーワード

    動的ゲーム,パレート最適戦略,ナッシュ均衡戦略,スタッケルベルグ均衡戦略,フィルタ付き確率空間,標準ブラウン運動,ウィナー過程,確率微分方程式,伊藤の公式,無限小生成作用素,オイラー・丸山近似,最大原理,動的計画法,リカッチ代数方程式,線形行列不等式

    書籍の特徴

    現在に至るまで,ダイナミクスを伴わない静的ゲームに関しては,多数の良書が存在します。一方,ダイナミクスを前提とした動的ゲームに関する書籍は,洋書では,多数の良書があるにもかかわらず,著者が知る限り,和書では中々見当たらないのが実情です。そこで,本書では,確率システムを基盤とした電気・機械・プロセスシステムにおけるシステム理論および動的ゲームへの応用について述べています。本書の前半部分では,確率システムにおける基礎となる内容から,システム理論の基盤に到るまで,広範囲に記述しています。一方,後半では,動的ゲーム理論についての結果や実装方法,関連する事例等を平易に記述しています。

    各章について

    1章では,今後,必要となる数学の基礎的内容について説明を行います。さらに,関連する表記法についても説明を行います。内容に関しては,最適化手法を重点に説明を行います。また,最適解を得るために必要な数値計算法について触れ,その後,システムの安定性から始まり,システム制御理論ではおなじみの最適レギュレータ問題に関して,考察を行います。特に,最大原理や動的計画法による解法について説明を行います。また,近年のシステム制御理論の成果として重要なH∞制御理論や線形行列不等式(LMI)について触れます。

    2章では,まず,連続時間における確率過程であるウィナー過程に対して,ブラウン運動を定義し,その性質について解説します。特に,確率微分方程式や関連する伊藤の公式,無限小生成作用素について,簡易な証明を含め解説します。さらに,実際の確率システムの応用についても述べます。その後,マルコフ過程においては,マルコフジャンプ確率システムについて述べます。

    3章では,初めに連続時間確率システムに対して,基本的な結果である確率システムにおける可制御性,可観測性に関して議論を行い,その後,最適レギュレータ問題として良く知られる最適制御に関する結果を与えます.また離散時間システムに対しても,同様な結果を与えます。

    4章では,確率リカッチ代数方程式に見られる確率非線形行列方程式を解くための数値計算アルゴリズムについて言及します。初めに,確定システムに見られるリカッチ方程式に対して,シュール法,クラインマンアルゴリズムとして知られるニュートン法を基盤とした手法を中心に,アルゴリズムや収束に関する性質について述べます.その他,再急降下法によるアルゴリズム,座標降下法によるアルゴリズムによるもの等,代表的なアルゴリズムについて考察を行います。

    5章では,物理モデルのシステムパラメータが劇的に変化する,あるいは不規則なモード遷移を伴うシステムを扱う手法として良く利用される連続時間・離散時間マルコフジャンプシステムにおける安定化や最適制御問題について考察を行います。特に,線形行列不等式理論に基づく安定性から安定化,最適制御に到るまで,最新の結果について詳細を説明します。

    6章では,伊藤の確率微分方程式に基づく非線形確率システムにおける様々な制御問題を対象に,制御則を得るために必要な確率ハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式の導出,および数値解法を中心に考えます。また,4ステップスキームとよばれる数値計算法や,確定ハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式の数値解法に由来するアルゴリズムに関して,解説を行います。

    最後の7章では,確率システムにおけるパレート最適戦略,ナッシュ均衡戦略,スタッケルベルグ戦略を考察します。特に,システム理論との関連,および不確定要素や環境変動に対してロバスト性を達成するための現在までの取り組みや成果について,基礎的事項も含め紹介します。その他,解析手法としての動的ゲーム理論や,不確定要素や環境変動をどのように解釈・表現すれば戦略の存在条件が定式化できるかを中心に述べます。

    著者からのメッセージ

    近年,原子力エネルギーから再生可能エネルギーへのシフトでは,ウィンドファームでの風車の配置問題,あるいは,それらの電力を利用したピークシフト・ピークカット問題等が知られています。さらには,複数ドローンに見られる協調制御等,動的ゲーム理論が大いに活躍できる諸問題が多く存在します。本書では,このようは現実問題を解くためのヒント,あるいは道具となる結果を網羅しています。この本によって,少しでもこの分野に興味を抱く研究者が増え,活性化することを願ってやみません。

    確率システムにおける制御理論 [確率システムにおける制御理論] 向谷博明(広島大教授) 著