人工衛星・惑星探査機のための宇宙工学

人工衛星・惑星探査機のための宇宙工学

人工衛星・宇宙探査機の打上げから予定軌道投入まで順を追い,その物理的意味を主眼に解説

ジャンル
発行予定日
2024/05/下旬
判型
A5
ページ数
312ページ
ISBN
978-4-339-04689-2
人工衛星・惑星探査機のための宇宙工学
近刊

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5,390

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

天体運動の基礎から,気象衛星や観測衛星に代表される地球周回衛星や,惑星,衛星などを探査する宇宙探査機の地上からの打上げ,目標軌道への投入などを題材に,基礎となる数学・物理がどのように宇宙工学につながるのかを解説した。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

本書は,大学の理工学系の学部初年度生,工業高等専門学校上級生,あるいは宇宙に興味を持っている高校生を念頭に執筆しました。20世紀中頃から始まり,70年を越えた人類の宇宙開発は,いま,地球まわりでは気象衛星やGPS衛星をはじめとするさまざまな分野で実用化の時代を迎え,一方,太陽系内の月や他の惑星・準惑星・衛星・小惑星・彗星などの探査や太陽系の生成や宇宙の誕生の謎を探るプロジェクトの実施,さらには人類の宇宙居住のための計画が検討されています。

宇宙開発にはじつに多岐にわたる学問が関連しています。すなわち,宇宙機の製造や,その打上げ,運用,さらに地球環境・気象観測・農漁業観測などの地球環境計測に関わる機械,電気電子,通信,誘導,制御などの工学分野や,太陽系の生成や宇宙の誕生の謎を探る宇宙探査・観測に関わる理学分野,打上げや軌道,地球まわりのスペースデブリに関する世界各国の取り決めに関わる法学分野,莫大な費用を伴う大型プロジェクトに関する経済学分野,宇宙環境の人体に与える影響を評価する医学分野なども関係してきます。

このようにさまざまな学問分野が関係する宇宙開発では,数々の分野の知識や経験を持った方々の協力の上に成り立っています。本書は,理工学分野に興味を持つ皆さんに,いま(これから),何を,どう勉強していけばよいのか,何が必要とされているのかを示すことができればという思いで執筆しました。すなわち,地球まわりの実用分野においても,宇宙探査の分野においても,いま(これから)皆さんが勉強している(しようとしている)大学教養課程の数学・物理が,どのような形で宇宙開発につながっているのか,またそのためにはその前段階の高校数学・物理からどのように進展しているのかを理解することが重要です。

一方,詳細かつ実際的な検討を行うためにはより進んだ数学・物理や計算機科学が必要になります。本書においては,宇宙に興味を持ってくださる皆さんに(たとえ,その分野が理学であれ,工学であれ,医学であれ…)皆さんの勉強している(しようとしている)数学・物理等々がどのように宇宙につながっているかを,気象衛星や観測衛星に代表される地球周回衛星や太陽系内の他の惑星,衛星等々を探査する宇宙探査機の地上からの打上げ,目標軌道への投入などを題材に紹介していきます。

まず,本書の1章から6章までは,「宇宙航行の基礎と実例」ともいうべき内容で,人工衛星・宇宙探査機を打ち上げてから,予定の軌道に投入するまでを順を追って,その物理的意味を主眼に説明しています。一方,7章は「宇宙航行のための数学・物理」として,1章から6章までの定量的な基礎となる数学的・物理的裏付けを単なる公式集ではなく,物理現象を記述できる数学として紹介しています。より詳細な数学的裏付けはそれぞれの専門書を参考にしてください。

1章は万有引力が作用している物体(天体)に成り立つケプラーの法則に関し,法則の物理的意味とその証明を導いています。その結果,得られる天体の軌道である円錐曲線から,楕円軌道を中心に軌道を定義しています。2章は,実用・観測・探査の対象である地球を始めとする太陽系内の恒星(太陽),惑星,衛星,準惑星,小惑星(帯),彗星,エッジワース・カイパーベルト天体やオールトの雲など太陽系の天体の概要について述べ,いままでの研究開発成果や今後の予定などについて簡単に紹介しています。

3章は衛星,探査機を打ち上げるためのロケット推進の原理,その性能パラメータ,軌道投入に必要とされる速度増分をどのように獲得するかを説明し,その後実際の打上げのシーケンスなどを,地球静止衛星を例に紹介します。4章では静止軌道などの地球周回衛星について,その軌道設計から各種軌道(太陽同期軌道,回帰軌道,準天頂軌道など)について記述しています。

5章では,これまでの軌道力学の実践的な応用として,月や惑星を目標天体として,打上げから目標天体を周回する軌道に投入するまでの軌道遷移手順と,それぞれの軌道を表現する際に鍵となるパラメータを示しています。6章では,1章で二体問題として求めたケプラー運動に対し,他天体の重力の影響,さらに国際宇宙ステーションへの接近やフォーメーションフライトなどのランデブー問題や軌道遷移に関するランベルト問題などを取り扱っています。これらの各章の関係を図に示します。





本書の構成は,天体運動の基礎,宇宙開発の現状から展望・計画までに関わる少し欲張りな内容となっていますが,その基礎となる数学・物理がどのように使われているかはご理解いただけるように留意しましたので,ご活用いただければ幸いです。

2024年4月
著者一同

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1. 衛星・探査機の運動,軌道
1.1 ケプラーの法則
 1.1.1 ケプラーの法則とは
コラム1:天体力学の基礎を築いた人々
 1.1.2 ケプラーの法則を導く
コラム2:シリウスAとシリウスB
1.2 座標系
 1.2.1 絶対座標系と慣性座標系
 1.2.2 慣性座標系
 1.2.3 天体や軌道面を基準とした座標系
 1.2.4 機体固定座標系[XB,YB,ZB]T
 1.2.5 速度および加速度の座標変換
1.3 軌道要素
 1.3.1 軌道の大きさと形状を指定するパラメータ
 1.3.2 軌道面の向きを指定するパラメータ
 1.3.3 軌道上の位置を指定するパラメータ
章末問題

2. 太陽系の天体
2.1 太陽系の構成
2.2 太陽系天体の概要
 2.2.1 太陽と惑星間物質
コラム3:HR図
 2.2.2 地球型惑星と小惑星帯までの天体
コラム4:世界の宇宙機関
コラム5:軌道共鳴
 2.2.3 木星型惑星と天王星型惑星
コラム6:ガリレオ衛星エウロパ
 2.2.4 太陽系外縁天体
コラム7:太陽系外惑星あるいは系外惑星

3. ロケット方程式と打上げから静止軌道投入まで
3.1 ロケット方程式
 3.1.1 ロケット推進の原理
 3.1.2 ロケット方程式の導出
3.2 実際のロケット打上げ時に働く力
 3.2.1 重力損失
 3.2.2 グラビティターン
 3.2.3 空気抵抗損失
 3.2.4 コースティング
3.3 軌道への投入方式
 3.3.1 ダイレクトバーン方式とダイレクトアセント方式
 3.3.2 ホーマン軌道遷移方式
 3.3.3 軌道面変更
 3.3.4 オール電化衛星(電気推進)による静止軌道投入方式
章末問題

4. 種々の地球周回軌道
4.1 軌道設計の目的
4.2 地球の重力場のゆがみによる摂動
4.3 太陽同期軌道
4.4 回帰軌道・準回帰軌道
4.5 地球同期軌道・静止軌道
4.6 太陽同期回帰軌道・太陽同期準回帰軌道
4.7 モルニヤ軌道・ツンドラ軌道
4.8 凍結軌道
4.9 準天頂軌道
4.10 軌道の比較
章末問題

5. 月・惑星への航行
5.1 パッチドコニックス法と影響圏
5.2 スイングバイの原理
5.3 地球を出発し月または惑星に至る軌道
 5.3.1 ロケットによる打上げ軌道と地球周回パーキング軌道
 5.3.2 地球を脱出する双曲線軌道
 5.3.3 太陽周回軌道
 5.3.4 天体を周回する軌道
 5.3.5 外惑星探査などへの拡張(スイングバイの利用)
5.4 月周回軌道への移行
5.5 惑星探査ミッションの解析
5.6 火星ミッションおよび金星ミッションへの応用
コラム8:火星大接近
 5.6.1 これまでの火星探査(打上げ日の特徴)
コラム9:火星探査機「のぞみ」
 5.6.2 地球出発→火星到着軌道の相対速度
 5.6.3 火星離脱→地球帰還軌道の相対速度
 5.6.4 地球出発→金星到着軌道の相対速度
章末問題

6. より高度な軌道設計に向けて
6.1 多体質点系の運動方程式
6.2 惑星方程式
 6.2.1 ラグランジュの惑星方程式
 6.2.2 ガウスの惑星方程式
 6.2.3 惑星方程式に基づくミッション軌道の設計
 6.2.4 静止軌道の軌道保持
6.3 ランデブー問題
6.4 ランベルト問題
6.5 DVEGA
6.6 制限三体問題
6.7 ラグランジュ点まわりの擬似軌道
6.8 弾道捕獲
章末問題

7. 宇宙航行のための数学・物理
7.1 運動量と角運動量
7.2 微分,積分と微分方程式
7.3 円錐曲線
 7.3.1 円錐曲線の概要
 7.3.2 楕円のデカルト座標表示
 7.3.3 楕円の極座標表示
 7.3.4 楕円の幾何学的関係
7.4 ベクトルと座標変換
 7.4.1 ベクトルの演算
 7.4.2 極座標を使ったベクトルの微分
 7.4.3 座標変換とベクトルの回転
7.5 数値計算
 7.5.1 代数方程式の解法
 7.5.2 微分方程式の解法
 7.5.3 高階微分方程式の解法
 7.5.4 連立微分方程式の解法
 7.5.5 数値積分の求積

引用・参考文献
章末問題解答
索引

竹ヶ原 春貴

竹ヶ原 春貴(タケガハラ ハルキ)

1969年7月21日、当時、中学生だった私は、白黒テレビにかじりついていました。何が起きた日かおわかりでしょうか?アポロ11号で人類が初めて月面に立った日です。そして、アポロ11号が地球に帰還した日に私は誕生日を迎えました。その後、大学で航空宇宙工学を専攻し、多岐に渉る宇宙工学の中で、宇宙推進工学、特に電気推進工学(「はやぶさ」や「はやぶさ2」でご存じの方もいらっしゃるかも知れませんが、イオンエンジンなどのプラズマを使った新しい宇宙推進機に関する研究です)の研究を続けてきました。企業で、大学で、宇宙推進工学の研究開発を行う中で、ミッションの成否に大きな影響を与える宇宙推進系のシステム設計・信頼性設計が重要であることを再認識し、そのシステム信頼性の向上もその後の研究テーマの一つとなりました。宇宙開発に限らず、安心安全の基礎となる信頼性・安全性に関して、本書を通じて興味を持って頂けましたら、幸いです。

佐原 宏典(サハラ ヒロノリ)

石井 信明(イシイ ノブアキ)

古本 政博(フルモト マサヒロ)