状態推定の理論

システム制御工学シリーズ 15

状態推定の理論

連続時間線形システムの状態推定法への入門書である。確定的な方法としてオブザーバとH∞フィルタを,確率的な方法としてはカルマンフィルタを取り上げている。確率的な方法に関する章は確率システムへの入門として読むこともできる。

ジャンル
発行年月日
2004/06/18
判型
A5
ページ数
176ページ
ISBN
978-4-339-03315-1
状態推定の理論
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定価

2,420(本体2,200円+税)

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連続時間線形システムの状態推定法への入門書である。確定的な方法としてオブザーバとH∞フィルタを,確率的な方法としてはカルマンフィルタを取り上げている。確率的な方法に関する章は確率システムへの入門として読むこともできる。

人間はさまざまなシステムを相手に意思決定を行う。システム制御も一つの意思決定である。意思決定を行う際重要となるのは,対象となるシステムについての知識である。そのシステムがどのように作られ,どのような法則に従って動いているかはもちろんであるが,それを知ったうえでさらに重要なことは,そのシステムが現在どのような状態にあるかを知ることである。元来,システムの状態を把握するのに十分な情報を指して,「状態」という述語が限定的に使われるのであるが,現実のシステムにおいてその状態を完全に知ることができるのはむしろ稀である。そのような場合,入手できるデータに基づいて状態を推定し,それを状態と見なすことは無理のない方策である。この本は,不確かさを含む一般的なシステムに対して,その状態を推定するための基礎理論への入門書である。

本書が対象とするのは,有限次元ベクトルを従属変数とする線形常微分方程式で表されるシステムである。そして,その不確かさは初期状態と加法的な入力項にのみあるとする。ここまで限定しでも,不確かさをどのように取り扱うかによってまた議論の仕方が分かれる。入力についていえば,ここでは,それを部分的に既知の属性を持った未知の時間関数と見る方法と,確率過程と見る方法の2通りを考える。どちらの道をとるかによってその後の展開が大きく異なるので,1章であらかじめ総括を行ったうえで,2~4章と5~7章に分けて論じた。いずれも対象とするシステムを相当に限定したうえでの一般論であり,理論の一般性を確保することより,理論の全体像の理解が容易となるような記述を心がけた。実際の応用においては,応用の可否を判断するために理論の体系的な把握が重要であると考えたからである。

2~4章の内容は,確定論的な状態推定理論である。中心となるのは,ある時刻(初期時刻)から先の入力が既知の場合に漸近的に正しい状態推定を実現するオブザーバの理論と,エネルギーの上界のみが既知の未知入力のもとでー定の推定精度を保証するH^∞フィルタの理論である。システム論的な理解を深める助けとなることを期して,制御問題との関連や,状態推定問題の別解釈などについても論じている。

5~7章の内容は,線形確率システムの状態推定理論である。目標は,よく知られたカルマンとビュシイのフィルタであるが,その基礎となる線形確率システムの理論についても詳述した。また,制御問題において状態推定が持つ意味を端的に示す「分離定理」についても言及した。ところで,確率論を基礎とするシステム論は初学者にとって手ごわいものとなりがちである。この点に配慮して,ここでは一つの試みを行った。それは,必要な予備知識の最小化である。すなわち,確率変数に対していったん2次積率の概念を導入したのちは,2次積率の議論に徹することにした。これによって,確率という概念すら陽に意識することなしに,2次積率から導かれる距離とそれに基づく収束概念だけで話を組み立てることができた。ただし,このような試みが成功したかどうかについては,読者の判断を待たなければならない。

記号や表記法は,できるだけ多くの書物や文献に共通する習慣に従った。人名については,日本人のものを除いてはすべてかたかな表記とし,複数の表記法が可能な場合は,著者らの周辺で最もよく見かけるものを採用した。また,数学者リヤプノフの名を冠した方程式に微分方程式と代数方程式があるが,どちらを指すかが文脈から明らかな場合は,あえて区別せず「リヤプノフ方程式」とした。「リカッチ方程式」についても同様である。全体にわたって共通に必要な基礎的事項は,参照しやすいように付録にまとめた。

本書が計画されてから出版に漕ぎつけるまでに思いのほか長い時聞を費やしてしまった。この間,原稿に目を通し適切なご意見をくださった編集委員長 池田雅夫先生ならびに編集委員 足立修一先生に感謝の意を表したい。また,コロナ社の方々にはさまざまな面でお世話になった。あわせて感謝申しあげる。

2004年4月
内田健康
山中一雄

1.状態と状態推定
1.1 状態
1.2 確定システムと確立システム
1.3 状態推定問題

2.確定システムの数理モデルと状態推定
2.1 状態推定問題の定式化
2.2 出力の有限時間観測データに基づく状態推定
2.3 出力の微分値に基づく状態推定
演習問題

3.オブザーバ
3.1 同一次元オブザーバ
3.2 最小次元オブザーバ
3.3 未知入力オブザーバ
3.4 オブザーバと状態フィードバック制御
演習問題

4.H∞フィルタ
4.1 H∞フィルタ
4.2 H∞フィルタと最小エネルギー問題
4.3 H∞フィルタのロバスト性
演習問題

5.2次確率変数と線形推定
5.1 2次確率変数
5.2 内積空間と直交射影の定理
5.3 2次確率変数列の収束
5.4 線形推定問題
5.5 不偏推定
演習問題

6.確率システムの数理モデル
6.1 2次確率過程
6.2 2次確率過程の微積分
6.3 線形システムの数理モデル
6.4 白色雑音と線形システム
6.5 周波数領域における特性表現
演習問題

7.カルマンフィルタ
7.1 問題の定式化
7.2 最適性の条件
7.3 最適フィルタの導出
7.4 状態予測問題
7.5 定常フィルタリング特性
7.6 確率的LQ制御問題と分離定理
7.7 二つの例題
7.8 白色でない観測雑音に対するフィルタリング特性
演習問題

付録
A.状態遷移行列(関数)
B.時不変システムの状態遷移行列と安定問題
C.線形システムの可観測性
D.線形システムの可制御性
E.リカッチ方程式(微分方程式)
F.リカッチ方程式(代数方程式)
G.A-GCの固有値配置問題と可観測性
H.確率変数と期待値
 H.1 確率空間
 H.2 確率変数
 H.3 期待値

引用・参考文献
演習問題の解答
あとがき
索引

内田 健康(ウチダ ケンコウ)

山中 一雄(ヤマナカ カズオ)

掲載日:2020/12/14

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