ハイテク・ITで変わる人間社会 - 人間と機械の異文化交流 -

ハイテク・ITで変わる人間社会 - 人間と機械の異文化交流 -

  • 齋藤 正男 東大名誉教授・東京電機大名誉教授 工博

人間と機械が混在する社会の中で,ハイテク・ITなど機械の能力がしだいに高まっていくとき,人間と機械の関係はどうなっていくのか。医学と工学の境界で研究してきた著者が,様々な問題点を指摘しながら人間と機械の将来像を描く。

ジャンル
発行年月日
2006/10/27
判型
A5
ページ数
176ページ
ISBN
978-4-339-07782-7
ハイテク・ITで変わる人間社会 - 人間と機械の異文化交流 -
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人間と機械が混在する社会の中で,ハイテク・ITなど機械の能力がしだいに高まっていくとき,人間と機械の関係はどうなっていくのか。医学と工学の境界で研究してきた著者が,様々な問題点を指摘しながら人間と機械の将来像を描く。

世の中の人々の発言や行動に激しい変化が起きつつある。いくつかの事件を見ると社会的規範や常識をはるかに飛び越え,脳の構造や心の駆動力が普通の人達とはまったく違うようだ。それは過去の特殊な環境や経験のためだと説明されるが,実はそうではなく,この十年来一般の人達にも多かれ少なかれ奇妙にも同じような変化が起きつつあることを感じる。特に世代の違う人達と話し気持ちを交流すると,共通部分もあるが大きく変化した面のあることに気づく。

この変化の根底に,実はハイテク機械文明の影響があることを感じる人は少ない。しかしその影響は進行しつつあり地底のマグマがまもなく噴火するような不気味さがある。もちろん変化のすべてをハイテクに押し付けるのは気の毒である。高齢化社会,少子化社会,核家族のための世代の断絶,社会の国際化など,さまざまな要因が錯綜しているのだろう。しかしその中でハイテク機械文明の進行があまりにも急激なために人々がそれに思慮深く対処する余裕がなく,ミスマッチを生じていることも事実である。一方でハイテク機械文明が我々にどのような影響を与え,またそれを償う能力を持つかについては,正面からの議論をほとんど聞かない。

著者は医学と工学の境界にあって,数十年にわたって研究と教育に努めてきた。そこはまさに「人間と機械のせめぎ合い」の原点であり,多くの生々しい例に接することになった。そしてこの分野は単なる医療技術の研究の場にとどまらず,人間と機械環境の整合性・不整合性についての問題意識を世間に発信する場であることを感じてきた。我々は,もはや従来のように機械を単なる道具として,「便利なら使う」という姿勢のままでは進むことはできない。機械がさまざまな面から人間に与える影響を予測して機械を開発・普及しければ,人間の存在意義自体が薄められていく。

ハイテク機械文明の影響がしだいに深刻になっていく一方で,ITをはじめとするハイテクの指導者達は,「便利な機械は普及させる」という姿勢から脱却していない。著者はこれを,「制御装置のないロケットが大衆を乗せて快調に?飛んでいる」図式と描いている。人間の立場からのテクノロジーアセスメントが始まってもよいのではないだろうか。

本書ではさまざまな切り口から,人間と機械の将来像を描くことに努めた。これからの世代の人達に,人間と機械のあり方についての議論を始めてほしいと思う。一般の人達にも読んでいただきたいが,この問題に関連する専門家の方々にも目を通してほしい。この領域に関連してさまざまな専門家がおり,それぞれに人間と機械の問題を探求しているがその方向性は必ずしも納得できるものとは限らない。本書は解説的であると同時に,専門研究者への批判や問題提起を少しだけ含めたつもりである。人間と機械の問題は広い範囲の学術・思想に関連する。当面する特定の研究課題だけでなく,この広い分野の中での自身の研究の位置づけについての意識を持っていただきたい。

本書の出版に当たっては,コロナ社の方々に無理をお願いし,大変お世話になった。深く謝意を表する。

2006年8月
斎藤 正男

1.機械はどこまで進歩するのか
1.1 弱い人類が強くなった
1.2 生きるということ
1.3 道具は手足・感覚の延長
1.4 集団行動とコミュニケーション
1.5 計算する機械
1.6 機械が考える
1.7 異質な仲間への昇格
1.8 機械が人間に影響を与える
1.9 機械はさらに人間に接近する
1.10 人間のS字型特性
1.11 機械は人間の代理をする
1.12 機械は勝手に進化し始める
1.13 機械の立場

2.生物の来た道,機械が辿る道
2.1 原理的進化論
2.2 機械的進化論
2.3 赤ちゃんの生きる姿勢
2.4 経験と学習
2.5 積極的に行動する意味
2.6 不確実な世界
2.7 個体は多様であってほしい
2.8 時間軸の問題
2.9 複雑系としての生物界
2.10 人間は機械とは違う

3.経験と教育
3.1 経験と伝承が重要になった
3.2 生存競争は変わった
3.3 それでも積極的行動
3.4 社会的常識の安定性
3.5 目標のすり替え
3.6 闘争と協調
3.7 教育はさらに重要になった
3.8 親離れの意味
3.9 機械の役目

4.積極的な行動
4.1 積極的行動の意味は
4.2 作用と反応
4.3 知識と知恵の獲得
4.4 機械は行動を支援する
4.5 人間と機械のミスマッチ
4.6 アバウトな人間
4.7 時間の遅れと予測
4.8 代理機械の立場
4.9 自己制御を助ける
4.10 体内機器への道
4.11 人間はいつも積極的なのか

5.生物の学習
5.1 人間の知恵と機械の知恵
5.2 神経回路網
5.3 閾値素子だが
5.4 自分のことしかわからない
5.5 神経細胞の可塑性
5.6 学習と記憶は分けられない
5.7 記憶の三つのブロック
5.8 三つのブロックの役目
5.9 古典的条件反射
5.10 条件反射の性質
5.11 オペラント条件づけ
5.12 ニューロコンピュータ
5.13 生物を真似なくても

6.学習の駆動力
6.1 膨大な入力と着目点
6.2 分配回路?
6.3 神経回路網と波動
6.4 脳の活動を見る
6.5 波動は情動
6.6 波動は干渉する
6.7 経験の痕跡
6.8 敷き込まれた波動パターン
6.9 覚醒・注意のフィルタ
6.10 思考の連鎖
6.11 閾値が変わると

7.人間は情動駆動型
7.1 情動駆動と論理駆動
7.2 人間と機械の協力
7.3 情動と感情
7.4 さまざまな情動
7.5 二つのフィルタ
7.6 遅い変化と速い対応
7.7 波動のS字型曲線
7.8 S字型曲線の意味
7.9 積分型と微分型
7.10 警戒反応
7.11 行動と期待
7.12 結果とやる気
7.13 不一致と寛大
7.14 人工世界との不一致
7.15 情動への接近を

8.機械は何をしてくれるのか
8.1 使用人からパートナーに
8.2 テクノロジーアセスメントは?
8.3 異質のパートナー
8.4 単機能化とミスマッチ
8.5 部分と全体
8.6 機械からの接近
8.7 シンビオシス
8.8 心理的側面
8.9 人間の聖域
8.10 コミュニケーションの言語
8.11 思考への接近
8.12 知識の整理の手伝い
8.13 直観の検証だけでは
8.14 人間の総合的理解に向けて

9.機械は別世界を提供する
9.1 機械は世界を広げる
9.2 テレビとIT
9.3 いわゆる臨場感
9.4 自分流に情報を受け取る
9.5 情動・感情への接近
9.6 連想と期待
9.7 二重の世界
9.8 どれが本物か
9.9 反法則・非常識の世界
9.10 機械がすべてを提供するのか

10.機械が人間を変える
10.1 接触するだけで人間は変わる
10.2 機械の大衆化と標準品
10.3 生活も社会も一律化する
10.4 便利で一律な知識
10.5 脆いクローン知識社会
10.6 機械流に生きる人間
10.7 機械の向こう側の人間
10.8 天動説人間
10.9 独りぼっちの自分
10.10 イージーゴーイング
10.11 育児と学校

11.仮想世界へのワープ
11.1 何のために?
11.2 二つの世界と出入口
11.3 意欲とハイテク
11.4 ワープのS字型曲線
11.5 情動と象徴
11.6 心の傷と逃避
11.7 叶えられない願望
11.8 法則と常識
11.9 前向きの経験
11.10 共通メモリの鞄
11.11 仮想世界に嵌まる

12.人間と機械の社会
12.1 最先端と大衆化
12.2 機械と大衆のミスマッチ
12.3 人間と機械の関係
12.4 社会の中の機械
12.5 三角関係
12.6 わかりやすいコミュニケーション
12.7 インタフェースとしての携帯
12.8 機械の影響
12.9 人間の主体性
12.10 教育はどうなる
12.11 家庭はどうなる
12.12 急いではいけない

索引

齋藤 正男(サイトウ マサオ)