建築音響

音響学講座 3

建築音響

音響物理の基礎事項のほか,聴覚や聴覚心理,電気音響設備についても必要な範囲で網羅

ジャンル
発行年月日
2019/12/11
判型
A5
ページ数
222ページ
ISBN
978-4-339-01363-4
建築音響
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定価

3,410(本体3,100円+税)

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音響物理の基礎事項のみならず,聴覚や聴覚心理の基礎に関わる内容や,建築物で利用される電気音響設備についても,建築音響学を学ぶうえで必要な範囲で網羅し,新しい研究成果も踏まえて,建築音響学として必須の事項を解説した。

建築音響学と呼ばれる分野は,19世紀末のセイビン(W. C. Sabine,米国)による残響時間の研究に端を発するとされ,以後,欧米ではarchitectural acousticsあるいはbuilding acousticsなどと呼ばれ,主として室内の音環境を対象とした研究分野として発展してきた。また,建築物における音環境の問題の多くが,閉空間すなわち室内の音場の問題であることから,建築音響学を室内音響学(room acoustics)と称する扱いもある。しかし,建築物やその周辺環境の多様化,複雑化に伴い,単に室内だけでなく建築およびそれを取り巻く環境全体の音響的問題を扱うようになりつつあり,環境音響学(environmental acoustics)という概念も定着しつつある。

建築音響学の特徴の1つとしては,単に物理現象を解きその音環境を表現する物理量を求めるだけでなく,それに対してヒトがどのように反応し,また評価するかを考慮することも必要となる点があげられる。これは,建築物の多くはヒトが居住し,あるいは利用することを目的とすることから考えると当然であり,建築学の1 つの領域としても位置付けられる重要なポイントである。

そのため,単に建築物やその周辺において生じる物理的な音響現象を解明し制御するのみならず,ヒトの聴覚の特性も考慮してそれを精神物理学的な手法によって評価していくことが求められる。したがって,音響物理のさまざまな基礎事項の応用とともに,ヒトの聴覚の特性,心理的な特性も併せて建築音響学が成り立っていると考えなければならない。また,建築物の大規模化や多様化に伴い,電気音響設備を用いることが一般化しているため,その基礎事項についても建築での応用の視点から音環境の理解のために必要である。このように,広範な知識を要する広がりを持っている。
 
本書では,上記の視点から,基礎事項として単に物理的な内容のみならず聴覚や聴覚心理の基礎に関わる内容や,建築物で利用される電気音響設備についても,建築音響学を学ぶうえで必要な範囲で網羅した。基礎事項については,『基礎音響学』(音響学講座1,コロナ社,2019 年)に詳しく述べられているが,本書の1 章では,建築音響分野に特有のものや,特に必要とされる基礎知識をまとめてあるので,必要に応じて『基礎音響学』も参照しながら読み進めていただきたい。2章では,上述の「室内音響学」にあたる内容であり,室内の音場という建築音響学では中心となる問題について,物理的な取扱いと心理的な評価について,重要な知見をまとめてある。3章は,吸音と遮音について述べたものであるが,これらは建築に限らず音環境を制御する手段として重要な音響材料や,その仕組みについてできる限り詳しく取り上げた。4章は音響設計について,応用的かつ類書には少ない内容を盛り込んでおり,本書の特徴の1つである。音響設計というとコンサートホールだけを想起しがちであるが,それ以外のあらゆる場面で音響設計が重要な役割を果たすことをご理解いただきたい。5章も本書の特徴であるが,室内に限らず,さまざまな建築物において今や必須となった拡声装置をはじめとする各種電気音響設備について,建築音響の立場から述べており,類書は少ないと思われる。よりよい音環境を実現するためにぜひご一読いただきたい。なお,以上いずれの章についても,新しい研究成果も踏まえて,建築音響学として必須の事項を解説している。

本書の執筆にあたって,音響学各分野において共通となる基礎事項については,本音響学講座の関連分野の巻を参照いただくとして,建築物の音環境に関わる諸問題を扱ううえでの応用的な側面に焦点を当て,音響学の基礎的な内容を学んだ方が,建築音響学の全体像を把握することができるよう心掛けた。本書によって,建築音響学についての理解をよりいっそう深めていただければ幸いである。なお,執筆分担は以下のとおりである。
  豊田政弘(1章,3章), 佐藤逸人(1章,2章), 羽入敏樹(2章,4章), 
阪上公博 (3章), 尾本 章(4章,5章)
 2019年8月 阪上公博

1.音の基礎
1.1 音波の記述
 1.1.1 1次元波動方程式の解(ダランベールの解)
 1.1.2 重ね合わせの原理
 1.1.3 周波数分析
1.2 音波の分類
 1.2.1 スペクトルによる分類
 1.2.2 波面形状による分類
1.3 音波の物理量
 1.3.1 実効値
 1.3.2 比音響インピーダンス
 1.3.3 音響インテンシティ
 1.3.4 音響パワー・音響出力
 1.3.5 音響エネルギー密度
 1.3.6 レベル
1.4 音波の性質
 1.4.1 反射・吸音・透過
 1.4.2 干渉
 1.4.3 回折
 1.4.4 散乱
 1.4.5 屈折
 1.4.6 共鳴
 1.4.7 放射
1.5 純音の知覚
 1.5.1 可聴範囲
 1.5.2 ラウドネス
 1.5.3 ピッチ
1.6 複合音の知覚
 1.6.1 臨界帯域とマスキング
 1.6.2 音脈分凝
 1.6.3 雑音の知覚
 1.6.4 楽音(調波複合音)の知覚
 1.6.5 音色
 1.6.6 マスクトラウドネス
1.7 音声の知覚
 1.7.1 音声の生成
 1.7.2 音声の明瞭性
 1.7.3 音声の物理特性
1.8 両耳効果
 1.8.1 ラウドネスの両耳加算
 1.8.2 左右の方向知覚
 1.8.3 両耳マスキングレベル差
引用・参考文献

2.室内の音場
2.1 室内音場の特徴
2.2 室内音場の波動的性質
 2.2.1 室の固有振動
 2.2.2 管内の固有振動
 2.2.3 直方体の固有振動
 2.2.4 固有振動の分布と縮退
2.3 拡散音場の性質
 2.3.1 拡散音場の仮定
 2.3.2 固有振動の減衰とシュレーダー周波数
 2.3.3 拡散音場を伝搬する音波のエネルギー
 2.3.4 拡散音場における壁面への入射エネルギー
2.4 室内音場の残響理論
 2.4.1 残響時間と室の吸音
 2.4.2 等価吸音面積と平均吸音率
 2.4.3 セイビンの残響式
 2.4.4 アイリングの残響式
 2.4.5 空気吸収を考慮した残響式
 2.4.6 拡散音場の残響理論の適用限界
 2.4.7 その他の残響理論
2.5 音圧分布
 2.5.1 室内平均音圧レベル
 2.5.2 音圧分布
 2.5.3 Barronの修正理論による音圧分布
2.6 室内音場の測定
 2.6.1 残響減衰曲線
 2.6.2 測定方法
 2.6.3 ノイズ断続法
 2.6.4 インパルス応答積分法
 2.6.5 残響時間の測定結果の表示
2.7 室内音場における音の知覚と物理指標
 2.7.1 室内音場における聴覚事象
 2.7.2 ラウドネス
 2.7.3 残響感
 2.7.4 広がり感
 2.7.5 明瞭性
 2.7.6 音響障害
引用・参考文献

3.吸音と遮音
3.1 吸音材料と吸音機構
 3.1.1 吸音材料の種類
 3.1.2 多孔質吸音材
 3.1.3 板(膜)振動型吸音体
 3.1.4 共鳴器型吸音体
3.2 各種吸音材料の特徴と用法
 3.2.1 背後構造の影響と吸音特性
 3.2.2 表面仕上げなど
3.3 吸音率の測定方法
 3.3.1 音響管法
 3.3.2 残響室法
3.4 吸音率の予測方法
 3.4.1 吸音材料の特性インピーダンスおよび伝搬定数
 3.4.2 吸音材料の吸音率1:垂直入射および斜め入射の場合
 3.4.3 吸音材料の吸音率2:乱入射の場合
3.5 新しい吸音材料
3.6 壁体による空気音の遮音
 3.6.1 単層壁の音響透過―質量則について―
 3.6.2 コインシデンス効果
 3.6.3 二重壁の遮音
 3.6.4 2室間の遮音問題
 3.6.5 ダクトの騒音伝搬とその対策
3.7 固体音・防振・床衝撃音
 3.7.1 固体音
 3.7.2 防振
 3.7.3 床衝撃音
引用・参考文献

4.音響設計
4.1 室内音響設計の基本的考え方
 4.1.1 演奏空間の設計
 4.1.2 音声明瞭度の設計
 4.1.3 スピーチプライバシーの設計
 4.1.4 建築空間における吸音の重要性
4.2 室形状の設計
 4.2.1 初期反射音の重要性
 4.2.2 音場の特異現象と音響障害の防止
 4.2.3 拡散体
4.3 残響の設計
 4.3.1 最適残響時間
 4.3.2 平均吸音率
 4.3.3 室容積の確保
 4.3.4 壁面材料の選定と吸音計画
4.4 シミュレーションと模型実験
 4.4.1 幾何音響シミュレーション
 4.4.2 波動音響シミュレーション
 4.4.3 音響模型実験
4.5 設計の実際
 4.5.1 コンサートホール
 4.5.2 講堂・教室
 4.5.3 映画館
 4.5.4 オフィス空間
 4.5.5 スピーチプライバシー
 4.5.6 公共空間
 4.5.7 住宅の居住空間
引用・参考文献

5.電気音響設備
5.1 電気音響設備の概要
 5.1.1 電気音響設備を用いる空間と目的
 5.1.2 電気音響設備に求められる機能と性能
5.2 電気音響設備の機能
 5.2.1 拡声
 5.2.2 明瞭性の向上
 5.2.3 音像の操作
 5.2.4 残響付加などの音場の制御
5.3 電気音響設備の特徴
 5.3.1 スピーカシステム
 5.3.2 システムの仕様の例
 5.3.3 多目的ホール,コンサートホール,劇場における電気音響設備
 5.3.4 このほかの建築空間における電気音響設備
5.4 電気音響設備の評価
 5.4.1 測定項目と概要
 5.4.2 測定点の設定―受音点の設定―
 5.4.3 試聴の重要性
参考文献

索引

豊田 政弘(トヨダ マサヒロ)

羽入 敏樹(ハニュウ トシキ)

掲載日:2022/03/01

「日本音響学会 2022年春季研究発表会 講演論文集」広告

掲載日:2021/12/27

「日本音響学会誌」2022年1月号広告

掲載日:2021/08/26

日本音響学会 2021年秋季研究発表会講演論文集広告

掲載日:2021/03/01

日本音響学会 2021年春季研究発表会 講演論文集広告

掲載日:2020/11/02

「日本音響学会誌」2020年11月号広告

掲載日:2020/03/04

日本音響学会 2020年春季研究発表会 講演論文集広告

「音響学講座」ラインナップ
  1. 基礎音響学
  2. 電気音響
  3. 建築音響
  4. 騒音・振動
  5. 聴覚
  6. 音声(上)
  7. 音声(下)
  8. 超音波
  9. 音楽音響
  10. 音響学の展開
「音響学講座」発刊にあたって

 音響学は,本来物理学の一分野であり,17世紀にはその最先端の学問分野であった。その後,物理学の主流は量子論や宇宙論などに移り,音響学は,広い裾野を持つ分野に変貌していった。音は人間にとって身近な現象であるため,心理的な側面からも音の研究が行われて,現代の音響学に至っている。さらに,近年の計算機関連技術の進展は,音響学にも多くの影響を及ぼした。日本音響学会は,1977年以来,音響工学講座全8巻を刊行し,わが国の音響学の発展に貢献してきたが,近年の急速な技術革新や分野の拡大に対しては,必ずしも追従できていない。このような状況を鑑み,音響学講座全10巻を新たに刊行するものである。

 さて,音響学に関する国際的な学会活動を概観すれば,音響学の物理/心理的な側面で活発な活動を行っているのは,米国音響学会(Acoustical Society of America)であろう。しかしながら,同学会では,信号処理関係の技術ではどちらかというと手薄であり,この分野はIEEEが担っている。また,録音再生の分野では,Audio Engineering Society が活発に活動している。このように,国際的には,複数の学会が分担して音響学を支えている状況である。これに対し,日本音響学会は,単独で音響学全般を扱う特別な学会である。言い換えれば,音響学全体を俯瞰し,これらを体系的に記述する書籍の発行は,日本音響学会ならではの活動ということができよう。

 本講座を編集するにあたり,いくつか留意した点がある。前述のとおり本講座は10巻で構成したが,このうち最初の9巻は,教科書として利用できるよう,ある程度学説的に固まった内容を記述することとした。また,時代の流れに追従できるよう,分野ごとの巻の割り当てを見直した。旧音響工学講座では,共通する基礎の部分を除くと,6つの分野,すなわち電気音響,建築音響,騒音・振動,聴覚と音響心理,音声,超音波から成り立っていたが,そのうち,当時社会問題にもなっていた騒音・振動に2つの巻を割いていた。本講座では,昨今の日本音響学会における研究発表件数などを考慮し,騒音・振動に関する記述を1つの巻にまとめる代わりに,音声に2つの巻を割り当てた。さらに,音響工学講座では扱っていなかった音楽音響を新たに追加すると共に,これからの展開が期待される分野をまとめた第10巻「音響学の展開」を刊行することとし,新しい技術の紹介にも心がけた。

 本講座のような音響学を網羅・俯瞰する書籍は,国際的に見ても希有のものと思われる。本講座が,音響学を学ぶ諸氏の一助となり,また音響学の発展にいささかなりとも貢献できることを,心から願う次第である。

2019年1月

安藤 彰男