円偏波アンテナの基礎

円偏波アンテナの基礎

アンテナや偏波に関する基礎的事項から円偏波アンテナの基本,およびその特性向上技術から円偏波アンテナの測定方法までを網羅する。

ジャンル
発行年月日
2018/10/03
判型
A5
ページ数
220ページ
ISBN
978-4-339-00914-9
円偏波アンテナの基礎
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定価

3,410(本体3,100円+税)

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円偏波アンテナに特化してその基本的知識や技術についてわかりやすく解説する。具体的には,アンテナや偏波に関する基礎的事項から円偏波アンテナの基本,およびその特性向上技術から円偏波アンテナの測定方法までを網羅する。

電波の電界が一定の形を波面内に描きながら振動する性質は偏波と呼ばれる。最も効率よい電波の送受信のためには,伝搬方向を法線とする波面内におけるアンテナの角度で,特に送受信アンテナそれぞれの電界が最も大きく振動する向きが一致する角度,すなわち偏波の向きに相当する角度(アライメント角と呼ばれる)が一致するように送受信アンテナの角度を選ぶことが求められる。電界が描く偏波の形状が直線状であれば直線偏波と呼ばれるが,その一方で電界が円形を描くように回転しながら伝搬する偏波は円偏波と呼ばれ,応用上の利点が二つ知られている。一つ目は電界成分が回転しながら伝搬する振舞いにより,波面内の送受信アンテナにおけるアライメント角が自由に選べることである。二つ目は入射角がブリュースター角内であれば反射後の電界の旋回方向が逆転し,交差偏波となる性質である。後者は,例えばマルチパスフェージング(多重波による干渉)の軽減につながる。

円偏波の応用は多岐にわたるが,例えば移動体衛星通信やGPS(global positioning system),RFID(radio frequency identifier),レーダ,DBS(direct broadcasting satellite),ETC(electronic toll collection)システム,および電波天文などが挙げられる。これらは前述の振舞いの恩恵を受けていると考えてよい。このような各種応用に向けた円偏波アンテナにはさまざまな要求事項が生じてくる。そのような背景の中,円偏波アンテナに関する研究論文や発表数は近年増加傾向にある一方で,円偏波アンテナに特化した国内向けの教科書は現時点で出版されていないようであるため,著者の浅学菲才を顧みずも本書を出版するに至った。本書が偏波という観点からアンテナを考えるよい機会となれば幸いである。本書では,まず最初にアンテナ全般の基本的事項や概念について1章にまとめた。2章においては円偏波に関する基本的知識について述べる。円偏波の発生のためにはアンテナ上の電流を制御することが必要であり発生する電界が給電信号の位相の進行に伴って回転する機能をもたせることが必要である。これらの基本構造については3章で扱う。また,円偏波アンテナの広帯域化,小型化などの性能向上技術について4章で述べる。測定は円偏波アンテナの評価のために重要であり,円偏波の振舞いに特化したアンテナの評価方法や測定方法については5章で述べる。

最後に,本書においては円偏波アンテナに関する基本技術や概念を主に扱ったが,これらの内容は電子情報通信学会アンテナ・伝播研究会主催のアンテナ・伝搬における設計・解析手法ワークショップ第56回の内容を基にしている。ワークショップの準備の際においては,高橋応明先生(千葉大学),新井宏之先生(横浜国立大学),北直樹様(NTT)をはじめとする実行委員会メンバーからの多くの有意義なご指導ご鞭撻に基づいており深謝したい。また,本書の執筆に際して実行委員会のメンバーでもあり,日ごろより学会などで議論をさせていただいている西山英輔先生(佐賀大学)には通読と共に多くの指摘をしていただき,さらに著者と同じ研究グループの久世竜司先生(熊本大学)には細かい校正でお世話になり,両先生に対しても深く感謝したい。以上のようなサポートがあったにもかかわらず本書に不具合な点があれば,偏に著者の能力不足や理解不足のためであろう。なにかお気づきの際には著者までご一報いただきたい。

2018年8月 福迫 武

1. アンテナの基礎
1.1 伝送線路理論
 1.1.1 分布定数線路モデル
 1.1.2 入力インピーダンスとインピーダンス整合について
 1.1.3 短絡スタブと開放スタブ
1.2 マクスウェル方程式
1.3 微小放射素子について
 1.3.1 微小電気ダイポール
 1.3.2 微小電流ループ
 1.3.3 微小電気ダイポールと微小電流ループ
1.4 ダイポールアンテナ
1.5 スロットアンテナ
1.6 導波管およびホーンアンテナについて
 1.6.1 方形導波管について
 1.6.2 ホーンアンテナについて
 1.6.3 円形導波管について
1.7 マイクロストリップ線路とパッチアンテナ
1.8 アンテナの諸特性
 1.8.1 入力インピーダンス
 1.8.2 アンテナのもつ損失
 1.8.3 アンテナの利得
1.9 フリスの公式
引用・参考文献

2. 円偏波の基礎
2.1 平面波とは
2.2 偏波とは
2.3 円偏波の旋回方向
2.4 幾何学的パラメータによる楕円偏波の表現
2.5 Jonesベクトルによる偏波の表現
 2.5.1 Jonesベクトルについて
 2.5.2 円偏波を基底とした偏波の合成
2.6 ストークスパラメータによる偏波の表現
2.7 ポアンカレ球による偏波の表現
2.8 ARについて
 2.8.1 軸比が電波の送受信に与える影響
 2.8.2 軸比とXPDについて
 2.8.3 軸比と偏波損失について
 2.8.4 振幅比と位相差の変化が軸比に及ぼす影響
2.9 反射および透過による偏波の変化
 2.9.1 定式化
 2.9.2 反射前後の円偏波の振舞いの変化
 2.9.3 透過前後の円偏波の振舞いの変化
引用・参考文献

3. 円偏波アンテナの基本的構成
3.1 ヘリカルアンテナ
 3.1.1 ノーマルモードヘリカルアンテナ
 3.1.2 軸モードヘリカルアンテナ
3.2 スパイラルアンテナ
 3.2.1 自己補対構造
 3.2.2 スパイラル曲線
 3.2.3 スパイラル素子からの円偏波の放射
 3.2.4 アルキメデススパイラルアンテナの設計例
3.3 直交励振
 3.3.1 クロスダイポールによる円偏波の直交励振と給電回路
 3.3.2 パッチアンテナによる円偏波の直交励振
3.4 摂動励振
 3.4.1 クロスダイポールによる摂動励振
 3.4.2 パッチアンテナの摂動励振
3.5 偏波変換器による円偏波励振
3.6 シーケンシャルアレーによる円偏波の励振
 3.6.1 シーケンシャルアレー
 3.6.2 円偏波アンテナの回転配置によるAR帯域の広帯域化
3.7 マイクロストリップ線路アレーアンテナ
引用・参考文献

4. 円偏波アンテナの実際
4.1 4点給電法による円偏波の励振
 4.1.1 2点給電法における交差偏波発生のメカニズムと4点給電法による対策
 4.1.2 4点給電法によるヘリカルアンテナ
4.2 円偏波アンテナの広帯域化
 4.2.1 パッチアンテナのインピーダンス帯域の広帯域化
 4.2.2 ARの広帯域化
 4.2.3 4点給電法による円偏波パッチアンテナの広帯域化
 4.2.4 広帯域導波管型円偏波アンテナ
 4.2.5 メタ表面による円偏波アンテナの広帯域化
4.3 円偏波アンテナの小型化技術
 4.3.1 素子形状の工夫による小型化
 4.3.2 高誘電率材料の使用と負荷装荷による小型化
4.4 無指向性円偏波アンテナ
引用・参考文献

5. 円偏波アンテナの測定
5.1 円偏波測定の基本
5.2 偏波測定法
5.3 放射パターンの測定
 5.3.1 主偏波と交差偏波の測定
 5.3.2 スピンリニア法
5.4 偏波パターンの測定
5.5 ARの測定
 5.5.1 スピンリニアパターン測定によるAR測定
 5.5.2 直線偏波アンテナを用いたAR測定
 5.5.3 円偏波アンテナを用いたAR測定とセンスの特定
5.6 偏波状態の測定
 5.6.1 振幅と位相の測定による方法
 5.6.2 振幅測定のみによる方法(6パラメータ法)
5.7 円偏波アンテナの利得の単位と直交2偏波の電力合成
 5.7.1 円偏波アンテナの利得の単位
 5.7.2 直交2偏波の電力合成
 5.7.3 dBiとdBicの関係
5.8 円偏波アンテナの利得の測定
 5.8.1 比較法
 5.8.2 2アンテナ法
 5.8.3 3アンテナ法
引用・参考文献

付録
A.1 偏波パラメータの導出
 A.1.1 楕円偏波を表す関数の導出
 A.1.2 εについて
 A.1.3 τについて
 A.1.4 ARについて
 A.1.5 ストークスパラメータS1,S2,S3について
A.2 方形パッチアンテナの設計について
A.3 円形パッチアンテナの設計について
引用・参考文献

索引

福迫 武(フクサコ タケシ)

日刊工業新聞2019年4月23日「科学図書」欄 掲載日:2019/04/24